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日本トゥースフレンドリー協会は

口腔保健の推進を目的とした非営利団体です。

TEL. 022-265-5757

〒980-0804 宮城県仙台市青葉区大町1-1-18 西欧館3F

役立つ歯科情報HEADLINE

歯磨剤は使った方がいいの?
使わなくてもいいの?

日本トウ―スフレンドリー協会広報委員長
東京歯科大学衛生学講座教授
 松久保 隆


患者さんから“歯磨剤を使ったほうがいいのでしょうか?”と聞かれることがよくあります。これは歯科医院で歯科医師や歯科衛生士からの歯みがき指導の経験がある人からの質問のようです。

歯科医師や歯科衛生士が患者さんに歯みがきのときに歯磨剤は使わないでくださいといっている理由を挙げてみたいと思います。

①. 口の中が泡だらけになって短時間で歯磨きを終わらせてしまう。

②. 爽快感があって短時間で終わらせてしまう。文章がここに入ります
歯磨剤を使用すると歯みがき時間が短くなるので歯磨剤は使用しないように指導しているのです。
したがって本来の歯磨剤の役割とは関係のないことなのです。
それでは、歯磨剤を利用しない場合、どのようなことが起こるのでしょうか?
    1. 歯みがきの時間が長くなる(?)
    2. 歯の磨耗が少なくなる(?)
    3. 口の中の細菌をばらまく。
    4. 歯の色が茶色くなる。
    5. フッ化物による歯質強化がなくなる。

歯磨剤を利用してもしなくても歯磨きの時間はあまり変わらない。短い人は歯磨剤を利用してもしなくても短く、むしろ歯磨き時間を長くかけるようにすることのほうが大切です。

歯の磨耗は歯ブラシでも起こります。最近市販されている歯磨剤の研磨性は極めて低いのでこの心配はないでしょう。磨く時間をかけすぎることのほうが危険です。
唾液1mlあたり108-9個(1-10億)、歯垢中にも1mgあたり1-10億の細菌がいます。これらの細菌が、歯みがきによって口腔内の唾液中に出てきます。

歯磨剤を使用していない人の歯の特徴は歯が茶色くなっていて、見るとすぐわかります。

歯磨剤に含まれているフッ化物は、歯質強化の働きを持ち、最近20年間に欧米諸国やわが国でのむし歯の減少は歯磨剤のフッ化物が配合されてから起こっている減少です。フッ化物配合の歯磨剤のシェアが高ければ高いほどむし歯の発生率は低いことがわかっています。

歯磨剤にはフッ化物以外にさまざまな薬用成分が配合されています。その機能を利用することも大切です。

このように、歯磨剤を利用することによって口の中を清潔に保ち、歯の色もきれいになることや、特に強調したいのは薬用成分であるフッ化物の効果を受けることができることです。


フッ化物は子供のむし歯予防のためで大人には関係ないと思わないでください。
成人でも歯肉が下がって歯の根の部分(歯根面)が出てきます。歯根面のむし歯予防にフッ化物は大変有効なのです。特に毎日フッ化物を作用させることができるフッ化物配合歯磨剤の利用は重要です。

また、歯の全面を金属やポーセレン(陶材)で直したからもうむし歯にならないと思わないでください。金属で歯を治してもその隙間からむし歯になることも多くあります。この予防にもフッ化物の毎日の利用で可能になります。


食生活からみた虫歯予防 
-何を食べたら虫歯にならないか-

元東北大学歯学部口腔生化学講座教授
 山田 正


 「むし歯になるので、砂糖の入った甘いお菓子を食べるのはやめましょう」と言われても、なかなか実行できないでしょう。
 発ガン性がはっきりしている煙草ですら、やめない人がいるくらいですから、むし歯(ウ蝕)のために砂糖を断つのは難しいと思います。

「甘いものを食べても歯を磨けば大丈夫」と言う人もいますが、フッ素入りの歯磨きを使わない限り、歯磨きだけでは、むし歯予防に大きな効果は期待できません。歯磨きは、歯周病の予防には効果がありますが・・・。

ここでは、甘い味を楽しみながら、むし歯を減らす方法がないのか考えてみましょう。

1.日本はむし歯大国

 欧米の先進工業国では、近年、むし歯が急激に減少し、スイスなどでは、生徒の半数以上がむし歯ゼロで小学校を卒業するそうです。
 一方、日本では、一人当たりの砂糖の消費量が少ないのにむし歯の減少は鈍く、12歳児のむし歯の数が、欧米諸国の中には1本を切る国もあるというのに、日本では4本近くというありさまです(図1)


なぜ日本のような先進工業国でむし歯が減らないのか不思議がられ、外国の研究者がしばしば私に問い合わせてきました。その議論の結果、日本の子供にむし歯が多い原因に次の三つがあげられました。

① フッ素の利用が少ない。
  (フッ素入り歯磨き、フッ素洗口など)
② 学校や保健所でのむし歯予防指導が、
  系統的に行われていない。
③ 間食に用いられる食品にむし歯にならない
  代用糖の使用が少ない。

2.Keyesの三つの輪

食べ物、バクテリア(細菌)、宿主(歯など生体側の要因)、これら三つの要因が揃って、始めてむし歯の発生に至るという Keyes(カイス)の三つの輪による説明は良く知られています。

しかし、この三つの要因のなかでも、実際には食べ物とむし歯はもっとも関係が深く、食べ物は、むし歯の発生の鍵を握る重要な因子となっています。


3.砂糖とむし歯の明白な関係

Marthaler (1959)の調査によると、図3に示すように、色々な国や地域の一人当たりの砂糖消費量と、むし歯の発生率(DMFT)には明瞭な関連がありました。

 この結果は口腔衛生指導が活発でなく、代用糖などはあまり使われていなかった時代のものですから、砂糖とむし歯の発生の関係がはっきり出ています。すなわち、砂糖の消費とむし歯の関係は極めて明白なのです。

(全体的に見るとこのようになりますが、個々人では、後述のように、砂糖を食べる総量よりも食べる頻度の方がむし歯の発生には重要です)

 

 4.砂糖を食べるとなぜ
   むし歯になるか?
 

 砂糖を食べると、歯垢の中に棲む細菌が砂糖(グルコ-ス、フルクト-スなどでも同様)を分解してこれを酸に変え、その結果、歯垢のpHが低下します。図4に見られるように、歯垢のpHは、砂糖を食べると5以下になります。
一方、歯の表面を覆うエナメル質はヒドロキシアパタイトとよばれるリン酸カルシウムでできています。これは体の中で一番硬い組織ですがpHが約5.5より低くなると急激に溶け出します(図5)。
このようにして歯が酸で溶かされることが、むし歯の直接の原因となります。


5.なぜ全ての歯垢の下にむし歯が
  発生しないのか
 

普通の食事をしても歯垢のpHは5.5より低くなります。デンプンを食べても歯垢のpHは低下するのです。それゆえ、1日に3回の食事のたびに歯垢のpHは5.5以下に低下して、歯が溶かされ、むし歯になってしまう理屈になります。

 
   

しかし、食事のときには唾液が多く分泌されます。すると、歯垢中の酸は唾液の成分(重炭酸塩など)で中和され、歯垢のpHは上昇してきます(図6)。そこで、歯から溶けだして歯垢の中にあったリン酸とカルシウムは、歯の表面に再び沈着し、歯が修復されます。唾液の中にもリン酸とカルシウムが多く含まれていますから、これらも歯に沈着して、歯を修復します。

それゆえ、1日に3回の食事をしている限り、簡単にむし歯になるわけではありません。


6.おやつを食べるとむし歯になり易

食事の間に間食をすると、歯が修復される間もなく歯垢の中で再び酸がつくられ、歯垢のpHが低下して歯が溶け続けます。
 ついには、歯の修復が追いつかなくなって、初期のむし歯が発生することになります。

 

7.むし歯は夜つくられる

NHKの番組「ウルトラアイ」の撮影のとき、西山さんというタレントを被検者にして実験したことがあります。眠る前に甘いものを食べた西山さんの歯垢のpHは、低下したまゝ回復せず、pH低下が少なくとも数時間以上続きました(図8)

 これは、歯垢のpH低下を回復させていた唾液が、眠っているときにはほとんど分泌されないためです。「歴史は夜つくられる」などと言われますが、「むし歯は夜つくられる」ことが多いと考えられます。

 

8.間食とむし歯の関係の証明

 国全体のような大きな単位ではなく、個人の単位で見てみると、砂糖を食べる総量よりも、食べる頻度の方がむし歯の発生と関係が深いことがわかっています。

 このことを示す研究は数多くありますが、その一つがスウェーデンのビペホルム精神病院で行われた有名な実験です。

この研究によると、精神病院の患者に食事の時にだけ甘いものを食べさせると、むし歯の発生は少ないのですが、食間に間食として甘いものを自由に食べさせると、むし歯の数が著しく増加することがわかりました(図9)   

 

 図10は、間食の回数とむし歯の数の関係を調べたデータです。
 間食がゼロだとむし歯がゼロになるわけではありま
せんが、間食の回数が増えると、むし歯が多く発生するのは事実です。

          

 9.むし歯にならない食生活とは

上記のことを考えると、間食を全くとらないことがむし歯を減らす方法として考えられます。しかし、これは多くの人にとって「言うは易く、行うは難し」でしょう。

そこで、間食に、歯垢のpHを下げないようなものを食べて、むし歯の発生を減らそうと考えられています。

そのために、砂糖に代わるむし歯になりにくい甘味料(代用糖)が種々開発され、使われています。これらのものを砂糖と完全に置き換えることは現実的ではありません。砂糖は甘味料としてきわめて優れています。

 また、どのような代用甘味料でも、大量に食べると、為害作用が問題となります。

国際的によく使われているキシリトール、ソルビト-ルなど糖アルコールの多くも、大量に食べると下痢をおこします。種々の甘味料を砂糖とうまく使いわけることが、むし歯予防の現実的な方法でしょう。

10.国際的に見ると異常な
   日本の表示方法

日本でも近年、「歯にやさしい」、「むし歯にならない」と表示したお菓子が多く出回っています。

しかし、これらのもののなかには、砂糖と同じように歯垢のpHを5以下に下げてしまうものがあります。
ほとんどのものが歯垢のpHを5以下に低下させてしまうと言っていいほどです。

国際学会のときにこの話をすると、多くの外国人研究者は「日本のような先進国でそんな馬鹿な」と言ってびっくりして、なかなか、この日本の現状が本当だとは信じてもらえません。



むし歯は食生活習慣病
(1~29)

東北大学名誉教授 山田 正

あなたはむし歯予防のために
何をしていますか?


 多くの人は、「歯を一生懸命磨いている」、「キシリトール入りのお菓子を食べている」、「砂糖を食べる量を減らしている」などと答えるのではないでしょうか。

 実は、これらは、むし歯の予防に大きな効果はないのです。

例えば、歯磨きは歯ぐきの病気(歯周病)には大きな効果がありますが、フッ素入りの歯磨きを使わない限り、むし歯の予防には大きな効果は期待できません。

砂糖のたっぷり入ったお菓子でも、食べ方によってはむし歯を起こす危険は少なくすることができるのです。

1.ミュータンス・ストーリーの誤り

日本で流布されているむし歯の原因についての話、ミュータンス・ストーリー、があります。この話は、下記のようにまとめられます。
すなわち、ミュータンス菌は砂糖を材料として、ねばねばした不溶性グルカンをつくり、そのため、菌は歯の表面に付着して歯垢をつくります。このようにしてつくられた歯垢に砂糖が浸入すると、ミュータンス菌はこれを材料として酸をつくり、歯の表面のpHを下げ、歯を溶かし、むし歯がつくられるというものです。
ミュータンス・ストーリーによると砂糖がむし歯の原因になる理由は二つあります。

  1. 不溶性グルカンの産生。
      砂糖は不溶性グルカンの材料となる.不溶性グルカンによって,ミュータンス・レンサ球菌が歯の表面に付着する(歯垢の形成)。
  2. .酸の産生。
     砂糖は,ミュータンス・レンサ球菌が酸をつくる材料となる。(歯を溶かす:初期齲蝕の発生)。
そこで、
• 不溶性グルカン、酸の両方の材料になる
 スクロ-ス(砂糖)

• 酸の材料なるが不溶性グルカンをつくる材料とはならない
グルコ-ス(ブドウ糖)やフルクト-ス(果糖)


• どちらの材料にもならないキシリトール

これら3群の糖によるむし歯の発生の状況を比較して、これらの性質がどの程度むし歯の発生に関与するかを考察してみましょう。
 
 
  不溶性
グルカン
の産生
 
酸の
 産生
スクロース
(砂糖) 
+  + 
 グルコース
    (ぶどう糖)
フルクトース
       (果糖)
異性化糖,転化糖
 - + 
 キシリトール  -
表2:各種糖の酸産生性と不溶性グルカン産生性
 Krasseによるハムスターの実験(下表3)では確かに56%のスクロ-スを与えた群の動物ではグルコ-スを与えた動物より遙かに多くのむし歯がつくられ、歯垢(菌の回収量)も増加し、ミュータンス・ストーリーがなりたつことを示しています。
 

表3:ハムスターでの,う触の発生(Krasse:1965)
 しかし、Bowenが猿を用いた実験(下図1)では、不溶性グルカンの材料となるスクロ-スを与えたグループと、不溶性グルカンをつくらないグルコ-スとフルクト-スの混合物を与えた群で、むし歯の発生率にはほとんど差がありません。
 
図1:猿のう触と摂取した糖の種類
 ヒトで実験した例があります。フィンランドのツルクで行われたTurku Sugar Studyです(下図2)


 図2:それぞれの甘味料を使っていた場合の
むし歯の増加率
 125人のヒトを3群に分け、それぞれに、スクロ-ス、フルクト-ス、キシリトールをコーヒーや紅茶の甘味料として提供し、また、これらの甘味料を使ったケーキ、ジャム、清涼飲料水、チョコレートなどを提供し、2年間は、甘味の食品としてはこのような食品のみを食べるように指導されました。

その結果、図のように、スクロ-ス群とフルクト-ス群ではむし歯の発生率にほとんど差がみられませんでした。酸の材料にも、不溶性グルカンの材料にもならないキシリトールを食べたグループでのみむし歯の発生が少なかったのです。

すなわち、グルコ-スやフルクト-スのように不溶性グルカンの材料とならないが発酵性の(酸産生の材料となる)糖は、砂糖と同じようにヒトのむし歯の原因になることがわかります。

また、スクロ-ス群とフルクト-ス群の間に、歯垢の量にも全く差が見られませんでしたので、ヒトの場合には、スクロ-スを材料としてつくられる不溶性グルカンが歯垢の形成に大きな役割をしているとは考えにくいのです。
Newbrunらによる遺伝性果糖不耐症患者
(Hereditary Fructose Intolerance; HFI)の調査によっても、このことは裏付けられます(下表4)。
 
  HFI
患者 
普通
の人 
平均年齢  29.1  26.5 
 むし歯罹患率    
  歯の数   2.1 14.3 
  歯面の数  3.3  36.1 
  むし歯
ゼロの人 
59%  0% 
 歯垢の量
(歯垢係数
1.2  1.2 
砂糖の消費     
   砂糖を含む食品
の摂取頻度
0.83  4.32 
   砂糖の消費量
(一人一日当たり)
0.83  4.32 
歯垢中の細菌
の検出頻度 
   
   ミュータンス・
  レンサ球菌
26%  72% 
   乳酸桿菌 10%  40% 
表4:遺伝性フルクトース不耐症(HFI)患者の
口腔状況
  この遺伝性疾患の患者は、フルクト-スを代謝する酵素の一つが欠損しており、砂糖や果物などフルクト-ス(果糖)を含む食品を食べると、悪心、嘔吐、ふるえなどの症状を起こし、ついには知能低下あるいは死さえも招くことがあります。そのため、スクロ-スやフルクト-スを含む食べ物を避けて生活することになります。

上表4のように、この患者のむし歯の発生率はきわめて低く、普通の人に比べ、歯面の数で1/10、歯の本数で1/7にもなります。スクロ-スは野菜などにも少量含まれますので、スクロ-スの摂取がゼロにはなりませんが、砂糖の摂取がいかに大きくむし歯の発生に影響するかがわかります。

しかし、歯垢の量を示す歯垢係数は、普通の人と全く変わりません。不溶性グルカンの材料となる砂糖の摂取が、歯垢の形成には大きな影響を与えないことがここでも示されています。

何日も歯を磨かないような状態で、砂糖を食べさせ続けると、ゲラチン様の歯垢が多量に蓄積することもありますが、通常の標準的な生活をしている人にとって、不溶性グルカンは歯垢形成に大きな役割をしていないことは明らかです。
何れにしろ、グルコ-スやフルクト-スのような発酵性の高い糖は、たとえそれが不溶性グルカン生成の材料とならなくとも、むし歯を起こす力が弱いとは言い難いのです。

この表4では、HFIの患者で、ミュータンス・レンサ球菌の検出頻度が減っています。砂糖の摂取による不溶性グルカンの生成がミュータンス・レンサ球菌が歯の表面に付着するのに重要な役目をしているように見えます。しかし、砂糖から不溶性グルカンをつくることができない乳酸桿菌の検出率も減っています。これらの菌の共通する性質は耐酸性が強い、すなわち、低いpHでも生存できる能力が高いことです。すなわち、砂糖の摂取頻度が高く、歯垢のpHが低下する機会が多い普通の人では、これらの菌が歯垢の中で優勢になってくるのです。
 それでは、ヒトでむし歯ができる機構はどのようなものでしょうか。以下の項目で、このことを考えてみます。

2.日本はむし歯大国

欧米の先進工業国では、近年、むし歯が急激に減少し、スイスなどでは、生徒の半数以上がむし歯ゼロで小学校を卒業するそうです。 一方、日本では、一人当たりの砂糖の消費量が少ないのにむし歯の減少は鈍く、12歳児のむし歯の数が、欧米諸国の中には1本を切る国もあるというのに、日本では3本前後というありさまです(右図)。
なぜ日本のような先進工業国でむし歯が減らないのか不思議がられ、外国の研究者がしばしば私に問い合わせてきました。その議論の結果、日本の子供にむし歯が多い原因として次の三つがあげられました。
  • フッ素の利用が少ない
    (フッ素入り歯磨き、フッ素洗口など)
  • 学校や保健所でのむし歯予防指導が系統的に行われていない
  • 間食に用いられる食品にむし歯にならない代用糖の使用が少ない 。


図3:世界各国のむし歯の数(12歳児)の推移

3.Keyesの三つの輪

食べ物(砂糖など)、バクテリア(細菌)、宿主(歯、唾液など生体側の要因)、これら三つの要因が揃って、始めてむし歯ができるというKeyes(カイス)の三つの輪による説明は有名です

図4:Keyes の3つの輪
この三つの要因の中でも、実際には食べ物とむし歯は極めて関係が深く、むし歯の発生の鍵を握っています。 

4.砂糖とむし歯の明白な関係

Marthaler (1959)の調査によると、右図に示すように、色々な国や地域での一人当たりの砂糖消費量と、12歳児のむし歯の発生率(DMFT)には明瞭な相関がありました。この結果は口腔衛生指導が活発でなく、代用糖などはあまり使われていなかった時代のものですから、砂糖とむし歯の発生の関係がはっきり出ています (注1) 。すなわち、砂糖の消費とむし歯の関係は極めて明白なのです (注2) 。

図5:一人当たりの砂糖消費量と
ウ触罹患率との関係
注1) 現在では,日本は欧米諸国より一人当たりの砂糖の消費量は 1/3 なのに,むし歯の数は3倍というように,この関係は変化しています.口腔衛生の発達した現在において,欧米でむし歯の数が減ったのは,砂糖の消費量が減ったためではありません。

注2) 全体的に見るとこのようになりますが,個々の人で見ると,砂糖を食べる総量よりも,砂糖を食べる頻度の方がむし歯の発生には重要です。
それでは、砂糖はどのようにして、むし歯を引き起こす原因になるのでしょう。

5.砂糖を食べるとなぜ
  むし歯になるの?

砂糖を食べると、歯垢(歯くそ)の中に棲む細菌は砂糖(グルコ-ス、フルクト-スなども同様)を分解して酸に変え、その結果、歯垢のpHが低下します(酸が増えるとpHは低下し、酸が減ると上昇します)。下図6の左に見られるように、歯垢のpHは、砂糖を食べると5以下になります。


図6:砂糖液の洗口による歯垢 pH の変化と
    pH によるエナメル質の溶解度
一方、歯の表面を覆うエナメル質はヒドロキシアパタイトとよばれるリン酸カルシウムでできています。(下図:歯の化学成分を参照)

図:歯の化学成分 
エナメル質は大変堅いものですが、pHが約5.5以下になると急激に溶け出します(上の図6右)。このようにして歯が酸で溶かされることが、むし歯の直接の原因となります。 

6.なぜ全ての歯垢の下に
  むし歯が発生しないのか?

普通の食事をしても歯垢のpHは5.5より低くなります。デンプンを食べても歯垢のpHは低下するので、1日に3回の食事のたびに歯垢のpHは5.5以下になり、歯が溶かされることになります。しかし、食事のときには唾液が多く分泌され、歯垢中の酸は唾液の成分(重炭酸塩など)で中和され、歯垢のpHは上昇します。(下図7a)

図7a:一日の生活時間での歯垢 pH の変化
そこで、歯から溶けだして歯垢の中にあったリン酸とカルシウムは、歯の表面に再び沈着し、歯が修復されます。唾液の中にもリン酸とカルシウムが多く含まれていますから、これらも歯に沈着して歯を修復します。それゆえ、1日に3回の食事をしている限り、簡単にはむし歯になりません。

7.おやつを食べると
   むし歯になり易い

食事の食事の間に間食をすると、歯が修復される間もなく歯垢の中で再び酸がつくられ、歯垢のpHが低下して歯が溶け続けます。ついには、歯の修復が追いつかなくなって、初期のむし歯が発生することになります。(下図7b)

図7b:一日の生活時間での歯垢 pH の変化

8.むし歯は夜つくられる

NHKの番組「ウルトラアイ」の撮影のとき、西山さんというタレントさんを被検者にして実験したことがあります。

眠る前に甘いものを食べ、眠ってしまった西山さんの歯垢のpHは、低下したまゝ回復せず、pH低下が少なくとも数時間以上続きました(下図8)。これは、眠っている間は、唾液がほとんど分泌されないためです。
「歴史は夜つくられる」などと言われますが、「むし歯は夜つくられる」ことが多いと考えられます。

9.間食とむし歯の関係の証明

国全体のような大きな単位ではなく、個人の単位で見ると、砂糖を食べる総量よりも、食べる頻度の方がむし歯の発生と関係が深いことがわかっています。

図9:ピペホルムの研究
このことを示す研究は数多くありますが、その一つがスウェーデンのビペホルム精神病院で行われた実験です。この研究によると、精神病院の患者に食事の時だけ甘いものを食べさせると、むし歯の発生は少ないのですが、食間に間食として甘いものを自由に食べさせると、むし歯の数が著しく増加することがわかりました(上図9)。
3倍の24個のトフィー(キャラメルのようなお菓子)を食べても、これを食事の時間に食べれば、間食に8個食べた人よりむし歯の発生は少なくなります。
下図10(Weissら,1960)は、小児の間食の回数とむし歯の数の関係を調べたデータです。間食がゼロだとむし歯がゼロになるわけではありませんが、間食の回数が増えると、むし歯の発生が増加します。
 

10.むし歯にならない食生活

間食を全くとらないことがむし歯を減らす有力な方法として考えられます。

しかし、これは多くの人にとって「言うは易く、行うは難し」でしょう。そこで、間食には、歯垢のpHを下げないようなものを食べて、むし歯の発生を減らすことが考えられます。そのために、砂糖に代わるむし歯になりにくい甘味料(代用糖)が種々開発され、使われています。
これらのものを砂糖と完全に置き換えることは現実的ではありません。砂糖は甘味料としてきわめて優れています。また、どのような代用甘味料でも、大量に食べると、為害作用が問題となります。世界の国々でよく使われているキシリトール、ソルビト-ルなど糖アルコールも、大量に食べると下痢をおこします。
種々の甘味料を砂糖とうまく使いわけることが、むし歯予防の現実的な方法でしょう。

11.甘味料の種類

甘味料は、砂糖以外にも種々のものがあり、種々の食品に使われています。
下図11に示すように、非糖質性甘味料はむし歯の原因になりません。糖質性甘味料は、多から少なかれ、むし歯の原因となりうるものが多いのですが、糖アルコールはむし歯の原因になりません。
糖アルコールとは、グルコ-ス(ぶどう糖)やフルクト-ス(果糖)のような糖に水素を添加したものです。


図11:甘味料の種類

12.キシリトールは
   糖アルコールの一種

最近、話題となっているキシリトールは糖アルコールの一つで、トウモロコシの芯や白樺を原料として化学的に合成されます。これらの原料からキシランという多糖類を抽出し、それを加水分解して、キシロースという単糖とし、さらに触媒を使って水素を添加してつくられます。キシリトールは天然物を素材とするので「天然素材甘味料」であると言う人がいますが、天然物を素材としない人工物(人工甘味料)などありませんから、これは言葉の錯覚を利用して、消費者に良いイメージを売ろうとする、一種のまやかしだと思います。

糖アルコールには、ソルビト-ル、マルチトール(還元麦芽糖)、エリスリトールなど多くのものがありますが、これらの多くも、最終的には触媒を使って水素を添加してつくられます(エリスリトールは醗酵によってつくられます)。

12:キシリトールの合成
これら糖アルコールは、いずれも甘味料として、広く使われています。
糖アルコールは、大量に食べると一時的に下痢を起こします(エリスリトールは最も下痢をおこし難いカロリー・ゼロの糖アルコールです:下図13および下表5)。
糖アルコールは果物等にも多く含まれ、また、歯磨剤の中には、ソルビト-ルを35%も含むものもあります。


図13:糖アルコールと下痢
 
表5:糖アルコールの甘味度とカロリー
 上表5(砂糖を100としたときの値)のように、糖アルコールは砂糖に比べ甘みが少ないという問題があります。しかし、キシリトールは砂糖と同程度の甘さがあり、これがキシリトールを甘味料として使うときの大きな利点になります。他のむし歯をおこす糖で甘みを補わなくとも、お菓子に十分な甘みをつけることができるのです。

13. キシリトール(糖アルコール)
    非ウ蝕誘発性(注3)

キシリトールはむし歯を起こさない甘味料です。しかし、これまでもソルビト-ル、マルチトール、エリスリトールなど、キシリトールと同様にむし歯を起こさない糖アルコールが甘味料として多く使われています。これらの糖に比べて、キシリトールだけがむし歯を起こす力が特段に低いわけではありません。

1996年8月、米国のFDA(食品医薬品局)は、食品に「Does not promote tooth decay(むし歯を起こさない)」と表示するためには、国際トゥースフレンドリー協会が行っているのと同じ方法で、歯垢のpHを5.7より低下させないことが必要だとする法律を発表しました。この法律の中では、これら糖アルコールの間にむし歯を起こす力の差はないとしています。

注3) ウ触誘発性とは,むし歯になりやすさのこと。したがって、非ウ触誘発性とは、むし歯をおこさないこと。

キシリトールの宣伝によく使われる図があります(下図13)。この図では、ソルビト-ル、マルチトールなどからは砂糖の20%ほどの酸がつくられるが、キシリトールからの酸の産生は0%であり、格段に優れた糖であるように見えます。このデータは、歯垢を集めて試験管内(酸素のある状態)で酸の産生を調べたものです。


図13:種々の糖からの,試験管内での
酸の産生(歯垢混濁液)  
(酸素のある状態)
しかし、糖アルコールからの酸の産生は酸素の有無で大きな影響を受けるので、酸素のある状態で行ったこのような研究結果は、「酸素のない実際の歯垢中」の糖アルコールからの酸の産生とは全く違ったものになります(下図14)


図14:種々の糖からの,歯垢中での
酸の産生(サンプリング法)
(酸素のない状態)
また、1985年に米国サンアントニオで世界各国のトップレベルの研究者を集めて4日間にわたって行なわれた「食品のウ蝕誘発性を評価についてのコンセンサス会議」でも、ソルビト-ルをウ蝕誘発性(むし歯を起こす力)がゼロの基準の糖と定めています。すなわち、ソルビト-ルにむし歯を起こす力があるように言うのは間違いです。

14.キシリトールの
          抗ウ蝕誘発性?

「抗ウ蝕誘発性」、すなわち「むし歯を起こす力に対抗する」という表現は、消費者の誤解を招きやすいとして、世界の多くの研究者は「絶対にさけるべき」との見解をもっています。しかし、キシリトールについては、抗ウ蝕誘発性があるかような説明がしばしばされています。


図15:無益回路
一つは、キシリトールはミュータンス・レンサ球菌を殺すと言うものです。この根拠は、キシリトールが細菌のなかに取り込まれ、ATPを使ってリン酸化され、さらにリン酸をはずして菌体外に放出することによってエネルギー(ATP)の浪費をさせるというものです。生化学の用語で無益回路(あるいは空転回路:Futile cycle) と呼ばれています。このような無益回路がミュータンス・レンサ球菌にあると推察されています。

しかし、その後の研究で無益回路が働かないミュータンス菌も多くあることがわかりました。少なくとも、キシリトールを食べ続けると、キシリトールで阻害されないようなミュータンス・レンサ球菌が増えてくることがわかっています。この菌は「善玉ミュータンス菌」という人がいますが、科学的根拠のない話しです。

15.キシリトールは砂糖の
   齲蝕誘発性にうち克てない

下図16は、0.5%の砂糖を人の歯垢の上に滴下したときと、0.5%の砂糖に9.5%のキシリトールを加えて、滴下したときの歯垢のpH変化を調べたものです。
砂糖の20倍ものキシリトールを加えても、砂糖による歯垢のpH低下を抑えることはできません。これでは、キシリトールに抗齲蝕誘発性があるとは云えません。


図16:キシリトール 95% でも pH は、
同じように下がる。   
キシリトールが50%以上入っていないとむし歯予防効果がないようなことが言われていますが、上図16のように、95%入っていてもむし歯をおこしうるのですから、これは間違いです。もちろん、キシリトール入りのお菓子のすべてがむし歯をおこさない、というのも間違いです。

キシリトール入りと大きく表示されているお菓子で、砂糖や水飴のようにむし歯になるものが入っているものさえ市販されています。このようなお菓子はむし歯の原因になります。試験管の中(すなわち,酸素のある状態)での、ある特定の細菌に対する効果を拡大解釈して、キシリトールに抗齲蝕誘発性、すなわち、むし歯の発生を防ぐような作用があると言うのは、間違いです。キシリトールそれ自身にむし歯を起こす能力がないだけの話です。

16.ミュータンス・レンサ球菌の
   数とむし歯の発生

キシリトール入りのチューインガムを長期に(1日10回)食べ続けると、ミュータンス・レンサ球菌の数が減るという報告があります。しかし、これは上記の無益回路によって菌が死ぬというよりは、歯垢のpHを頻繁に下げないためと考えられます。
ミュータンス・レンサ球菌や乳酸桿菌、低pHレンサ球菌などはpHの低い状況で生残る力(耐酸性)の強い、それゆえむし歯を起こす力の強い細菌です。そのため、頻繁に間食して歯垢のpHが頻繁に低下する環境では、これら耐酸性の強い菌は優勢になります(2ページの表参照)。これに対し、pHがあまり低下しない環境では、他の菌が優勢になります。
ですから、ミュータンス・レンサ球菌の数を減らす効果は、キシリトール独特のものではなく、歯垢のpHを低下させないマルチトールやエリスリトールなどでも同じ効果があると考えられます。私の研究室では学生に2ヶ月間にわたってキシリトール入りのガムを毎食後(1日3回)食べさせてみましたが、唾液中のミュータンス・レンサ球菌の数は減少しませんでした。
一方、ミュータンス・レンサ球菌の数が減ってもむし歯の発生が減るとは限りません。1996年のはじめに発表された論文(下図)では、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカなどの各国のデータを集めて詳細に解析したところ、口の中のミュータンス・レンサ球菌の数とむし歯の発生率にはあまり関係がなく、むし歯の発生は食生活によって大きく影響されると結論しました。

   むし歯は食生活習慣病なのです。

すなわち、ミュータンス・レンサ球菌の数を減らすからむし歯が減るというのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」論理と同じです。


図17:論文の表題

17.歯垢中で酸をつくる細菌

このような誤解は、多くの人が歯垢中で酸をつくる細菌はミュータンス・レンサ球菌だけだと信じているために起こるようです。

下表6は、糖を食べたときに達する歯垢の最低pHと歯垢中のレンサ球菌、ミュータンス・レンサ球菌の数を表したものです。ミュータンス・レンサ球菌がほとんどいないような歯垢でも、酸が沢山つくられむし歯をおこす可能性のある臨界pH(約5.5)以下に低下することがわかります。


表6:歯垢の最低 pH とミュータンス・レンサ球菌
   の比率には相関がない
よく「虫歯菌によって酸がつくられ・・」というような記載がありますが、歯垢中の大部分の菌は糖から酸をつくる能力があります。ことに上表6の最右項にあるレンサ球菌と呼ばれる細菌群は、歯垢の中に多く生息し、効率よく酸をつくります。

ですから、ミュータンス・レンサ球菌がいるかどうかよりも、糖を頻繁に摂取して歯垢のpHを頻繁に低下させるような食生活が、むし歯の発生により大きな影響を与えることは当然なのです。

18.キシリトールは
          むし歯を治す?

キシリトールは齲窩(むし歯でできた穴)の再石灰化(修復)を促進するとの議論をしばしば耳にします。確かに、キシリトール入りの(酸をつくらせない)チューインガムを長期に食べると、浅い齲窩が再石灰化される様子が見られることがあります。
キシリトールなど酸をつくらない甘味料を含むチューインガムを咬むと、歯垢のpHを下げることなく唾液の分泌が促進されます。その結果、唾液に含まれるリン酸やカルシウムが歯に沈着して歯の修復を助けます。
これは、キシリトール自身が歯の修復を助けるのではなく、pHを下げることなく唾液の分泌を促進した結果です。ですから、これまで多く使われている酸の材料とならない甘味料で味付けしたチューインガムを咬んでも同じ効果が見られるのです。

19.キシリトールと他の糖アルコ
   ールのウ蝕誘発性の違い

このような事実を踏まえ、アメリカの食品医薬品局(FDA)およびEUの科学委員会は、キシリトール、ソルビト-ル(ソルビット)、マンニトール(マンニット)、エリスリトール、マルチトール(還元麦芽糖)、ラクチトール、還元麦芽糖水飴、還元グルコ-スシロップなどはいずれも非齲蝕誘発性であり、これらの間にウ蝕誘発性の違いを認めていないのです

もちろん、キシリトールの抗ウ蝕誘性などは認めていません

前述(15節の図16)のように、砂糖の20倍入っていても、砂糖のむし歯を起こす力をうち消すことのできないものを「抗ウ蝕誘発性がある」と言うことは、明かな間違いです

20.甘いものを食べても、
   キシリトール入りのガムを
   咬めばむし歯にならない?

チューインガムなどよく咬むことを必要とするものを食べると、唾液の分泌が促進されます。6節に記載したように、唾液が分泌されると、その緩衝作用によって酸が中和され、歯垢のpHがあがります。それゆえ、ジュースのようなものを飲んだあとに、酸の材料となるような糖を含まないチューインガムを咬めば、歯垢のpHは上昇し、歯は修復されます。

しかし、飴のように糖の濃いものを食べたあとには容易なことでは歯垢のpHはあがりません。ジュースならばいつでも上昇するわけではありません。

歯垢のつく場所によっては、唾液の達しにくいこともあります。


図18:甘いものを食べた後に、「歯に信頼」マーク付きのガムを食べると、pH はあがることもあるが、あがらないこともある。
食事をしたあとや、コーヒー、ジュースなどを飲んだあとに、「歯に信頼マーク」 の付いたガムを咬むのは悪いことではありません。むしろ、勧めるべきことでしょう。しかし、ガムを食べれば大丈夫と考えてはいけません。

21.食品のウ蝕誘発性
(むし歯になり易さ)のランク付け

食品を「ウ蝕誘発性」、「低ウ蝕誘発性」、「非ウ蝕誘発性」などとランク付けすることはできないでしょうか。
表7:食品のウ触誘発性
   を決める要因
このような試みは多くの歯学研究者によって懸命に試みられました。しかし、これには根本的な困難があります。
例えば砂糖でできた飴は、ふつうに食べられればウ蝕誘発性が高いものですが、これを丸飲みにしてしまえば、ウ蝕誘発性はきわめて低くなります。

低ウ蝕誘発性の食品も、就寝前に食べればウ蝕誘発性は極めて高くなります。

すなわち、食品のウ蝕誘発性は、その食べられ方によって大きく変動するのです。むし歯を予防するためには、何を食べるか(What to eat)とともに、あるいはそれ以上に、どのように食べるか(How to eat)、いつ食べるか(When to eat)が重要になるからです。

一つだけ確実なことがあります。それは、歯垢で酸をつくらない、すなわち歯垢のpHを歯の溶ける臨界pHより低下させないものは、いつ、どのように食べても非ウ蝕誘発性であるということです

22.Toothfriendly International

上記の結論を利用した、国際的なむし歯予防の組織があります。それは、間食には歯垢のpHを低下させないようなものを食べるようにして、歯垢のpHが低下する頻度を下げることでむし歯を予防しようとする試みです。
 歯垢のpH変化を測る方法に「電極内蔵法」があります。義歯(入れ歯)の中に小さなpH電極を入れ、数日間かけて、その上に歯垢をつくらせてから、種々の食べ物を食べて歯垢pHの変化を連続的に測定する方法です(下図19)
 
図19
この方法を用いて、歯垢のpHを30分以内に5.7より低下させない食品に右図20のような「歯に信頼マーク」をつけることが許可されます。
図20:歯に信マーク

歯垢のpHが約5.5以下になると歯が溶け出しますから、間食には「歯に信頼マーク」をついたものを食べるようにし、それによってむし歯を予防しようとするものです。それゆえ、「歯に信頼マーク」を付ける食品は、間食に食べるスナック菓子類に限られます。日に3度の食事の時に歯垢のpHが下がるのはやむを得ないとして、食事と食事の間には、歯垢のpHを下げさせないようにして、歯の修復を助け、むし歯の発生を減少させようとするのです。
歯科医学研究者、歯科医師などが主導する、非営利団体の国際トゥースフレンドリー協会(Toothfriendly Intenational)がこれを統括しています。

この方法は、スイスで始まり、ドイツ、フランス、ベルギー、英国、イタリア、アルゼンチン、韓国などに広まりました。
1993年秋には日本にも協会(日本トゥースフレンドリー協会: Japanese Association for Toothfriendly Sweets;略称JATS)ができました

日本でもいくつかのキャンデーや、チューインガムに、「歯に信頼マーク」が付けられています。最近、アメリカでも同じ方法でテストして、歯垢のpHを5.7より低下させないものに、「むし歯をおこさない(Does not promote tooth decay)」と表示し「歯に信頼マーク」を付けて良いとの法律ができました。

23.シュガーレス食品

トゥースフレンドリー協会のテストは、必ず最終製品で行うことになっていますので、どの様な甘味料が使われているかということに、直接関与することはありません。

ところで,お菓子にシュガーレス、シュガーフリー、ノンシュガーなどと表示されているものを見かけます。これは、むし歯の原因になるスクロ-ス(蔗糖:砂糖)、グルコ-ス(ぶどう糖)、フルクト-ス(果糖)、異性化糖(グルコ-スとフルクト-スの混合物)など単糖類や二糖類(キシリトール、マルチトールなどの糖アルコール以外のもの)を0.5 %以上含んでいないものと定義されています(日本では平成8年5月に法律が制定されました)。

しかし、シュガーレス食品のなかにはデンプンや三糖類などで歯垢のpHを低下させるものや、酸蝕症を起こす危険のある酸が含まれていることがありますから、このような表示だけで「歯に安全」とは決められませんし、カロリーが低いとも限りません。


図21:シュガーフリーでも pH が 5.5 以下になることがある
上図21は、世界に四カ所にある国際トゥースフレンドリー協会公認の検査機関において、あるシュガーフリーの飴がどのくらい歯垢のpHを落とすかを調べたものです。すべての検査機関で、この飴は歯垢のpHを5前後まで、低下させ、歯に安全とは云えないとの結論を出しました。すなわち、シュガーレスなどの表示だけでは、むし歯になるかどうかは判定できないのです。

24.お菓子の成分から
   ウ蝕誘発性は判定できる?

シュガーレスなどの表示は、お菓子の成分に基づく表示です。しかし、あるお菓子がむし歯の原因になるかどうかは、成分だけから決めることは困難です。

下図22は、トローチをなめさせたときと、そのトローチを水に溶かして口に入れたときの歯垢のpH変化を記録したものです。成分は同じなのに、トローチ溶液では歯垢のpHが5以下に低下します。固体のトローチを舐めたときには、唾液がたくさん出て、酸が中和され、歯垢のpHが低下しなかったのです。

成分が同じでも、形が違っただけで、歯に安全かどうか変わってきます。むし歯になりやすいかどうかは、成分ではなく、食品全体で判定しなければなりません。もっとも、砂糖が入っていれば、むし歯の原因となることは確実です。

図22:pH の変化は、食物の形状によって変わる
日本で食品全体でテストをしているのは、厚生省が行っている特定保健用食品と、
図23:むし歯に関する表示
国際組織であるトゥースフレンドリー協会が認定した「歯に信頼マーク」付きの食品だけです。(図23)

25.チューインガムの効用

チューインガムの実験をしたとき、その効果の大きさに驚きました。砂糖水で口をすすいだ(下図)あとに、「歯に信頼マーク」の付いたガムを噛むと、歯垢のpHがすぐに上昇してきました。
ガムを噛むことによって唾液の分泌が盛んになり、歯垢中の酸が中和されたためです。


 やむを得ず甘いものを間食したときには、歯を磨くとともに、「歯に信頼マーク」の付いたチューインガムを噛むのも良いでしょう。    
ヨーロッパでは、食後にシュガーレスのチューインガムを噛むことを推奨している国もあるほどです。

ただ、前述(20節)のように、飴のような砂糖の濃度の高いものを食べた後では、チューインガムを咬んでも容易に歯垢のpHはあがりません。チューインガムを咬むことへの過度の効果を期待してはいけません。
日本の伝統的な食品である梅干しやスルメを噛んでも唾液の分泌は促進されます。それゆえ、これらのものを食べると、チューインガムと同じように歯垢のpHが上昇します(下図25)。
 
図25:唾液の分泌による pH の上昇効果
しかし、お茶を飲んだだけでは、歯垢のpHを上昇させませんでした。緩衝能をもつ唾液の役割の大きさがわかります。成人病の薬などの中には、唾液の分泌を低下させるものがかなり多くあります。このような薬を常用している人は、むし歯になる危険が大きいので注意をした方がよいでしょう。 

26.むし歯の危険はお菓子だけ   ではない

砂糖はたいへん優れた甘味料です。これを食事のときにだけ食べていれば、むし歯をおこす危険はそれほど大きくありません。現在開発されている種々の代用糖も、味、価格、為害作用(副作用)などの面を総合して考えると、甘味料として砂糖に優るものはありません。シュガーレス食品に多くつかわれている糖アルコールは、たくさん食べると下痢を起こします(12節図13)。

ですから、チューインガムや飴のように、食べる量は少ないが長い時間口の中に入っているようなものに代用糖を使うのが、もっとも適切かつ効果的な方法と考えられます。
喉の炎症や痛みをやわらげるためのトローチ類も長時間口の中に入っていますので、歯垢のpHを長時間低下させ、むし歯を起こす危険があります。

ヨーロッパでは、これらのものにも、「歯に信頼マーク」を付けて市販されています。

残念ながら、日本のトローチ類のほとんどは砂糖などを含み、むし歯を起こす危険があります。この危険を消費者が知らないため、これを販売する利点がないのです。むし歯の原因とならないように、その使い方に気をつけるべきでしょう。


   図27:シロップで洗口したあとに水でうがいをしても、ph は
        上昇しなかった

ヨーロッパでは、子供に飲ませるシロップ系の感冒剤がむし歯を発生させるとして、これにも代用甘味料を使っています。ことに、子供は薬を飲んだあと眠ってしまうことが多いので、むし歯の危険が大きくなります。
シロップを添加されたこのような薬は、上図27のように歯垢のpHを低下させます。その後に歯垢のpHを上げようと水でうがいをさせても、歯垢のpHはなかなか回復しませんでした。日本でも早く、歯に安全な甘味料を使ったシロップ系薬剤が市販されるようになると良いのですが・・・

27.歯磨きだけではむし歯予防
   はできない

「あなたはむし歯予防のために何をしていますか」との答えに、「歯を磨いています」と言う人が最も多いようです。
しかし、普通に歯を磨いただけでは、歯垢の40~60%は残ってしまうと言われています。ことに、むし歯が多い裂溝部には、歯ブラシの毛先が入りません。次にむし歯が多い歯間部の歯垢もとれにくいものです。一生懸命に歯磨きしたあと、歯間ブラシやフロス(糸楊枝)を使ってみると、たくさんの歯垢や食べ物のかすが残っているのに気付くでしょう。

図28:歯みがきの回数で、むし歯の発生率は、
それほど変わらない         
上図28のように、歯磨きの回数で、それほどむし歯の発生率が変わるわけではありません。国際的な歯科研究者のあいだでは、歯磨きは歯周病の予防には効果が大きいが、むし歯予防には大きな効果がないということになっています。

歯磨きすることは(研磨剤のたくさん入った歯磨きを使ってよっぽどごしごしこすらない限り)悪いことではありませんし、推奨すべきことです。しかし、歯磨きをしていれば甘いものを食べても大丈夫と言うようなことを考えては困ります。

28.歯磨きなどもきちんと
   しましょう

これまで、食生活の面からむし歯を論じてきましたが、口の中には唾液の達しにくい歯垢もあり、人によって歯垢のできやすい場所も違います。また、むし歯にならなくても、歯を磨かないと歯周病になりやすくなります。 食生活の面だけではなく、口腔清掃(フッ素含有の歯磨剤を使っての歯磨き)、フッ素化合物の適切な使用など、多くの面からむし歯予防に気を配ることが大切です。むし歯は多因子性の疾患ですから。シュガーレスのチューインガムを食べているから歯を磨かなくても大丈夫などと考えないで下さい。チューインガムでは、歯垢はほとんどとれません。


図29
私は、Keyesの三つの輪にあやかって、上図29のような提案をしています。すなわち、口の健康(口腔保健)を保つためには、食生活、歯磨き、フッ素の使用の三方面からの努力を平行して行うことが大切で、どれか一つが欠けても、しっかりした口腔保健が行われないという提案です。このうち一つだけを一生懸命行っていても、他の二つが欠けては、口の健康を保つことはできません。

29.結び

1日3回の食事に、栄養物をカプセルにして呑むというSFにでてくるような生活をしない限り、すなわち、人が食事を楽しむという習慣をやめない限り、少なくとも一日に3回、歯はむし歯の危険に曝されます。このような生活をする限り、むし歯が絶滅することはないでしょう。
しかし、砂糖と代用糖をうまく使いわけ、その食べ方に留意し、日々の少しの注意をすることでむし歯はかなり予防できます。現に、欧米人は日本人の3倍の砂糖を食べながら、むし歯の数は1/3です。食べる楽しみは、毎日の生活のなかで大切な部分です。甘いものを食べる楽しみを保ちながら、自分の歯で噛む楽しみを一生もち続けるためには、普段の食生活の工夫が大切です。食生活習慣に気おつけることで、むし歯はかなり予防できます。その意味で、むし歯は食生活習慣病と云えるでしょう。
歯の健康、口の健康を保つために、私は具体的には、下の3つの方法を提案します。

そんなに難しいことではありません。是非実行してみてください。

歯の健康、口の健康を保つために

  1. 間食には「歯に信頼マーク」のついたお菓子を食べよう。
  2. 寝る前には食べない。
  3. 歯みがきを忘れずにしよう。
    ※フッ素化合物入りの歯みがき剤  で 口腔清掃
(平成15年2月9日作成)



歯科常識のウソ

東北大学歯学部口腔生化学講座元教授
 山田 正

 新聞やテレビ、インターネットなどは人々に多くの情報をもたらします。しかし、誤った情報も氾濫しています。人々を驚かせるような刺激的な、しかし間違った情報は、よくマスコミで取り上げられます。「むし歯はストレスによって起こる」というような科学的根拠のない、刺激的な説にマスコミが飛びつき、報道されてきました。

歯科・口腔保健に関しても、このような間違った情報が常識として定着してしまったものもあります。

ここに、あげるいくつかの例は、これらの中のほんの一部にすぎません。日本の12歳児の子供のむし歯(齲蝕)の数が、欧米諸国に比べて2~4倍も多いのも、実はこの誤った情報にも大きな原因があるのです。情報化時代には、正しい情報と誤った情報を見分けることがきわめて重要となります。
これらのことが間違っていると理解するためには、齲蝕の発生する原理について知っておく必要があります。

1.砂糖を食べるとなぜ
むし歯になるか?

砂糖の摂取がむし歯の大きな原因になっていることは、よく知られています。砂糖を食べると、歯垢(プラーク)の中に棲む細菌は砂糖(グルコ-ス、フルクト-スなどでも同様)を分解して酸に変え、その結果、歯垢のpHが低下します(酸が増えるとpHは低下し、酸が減ると上昇します)。
下図に見られるように、歯垢のpHは、砂糖を食べると5以下になります。
一方、歯の表面を覆うエナメル質はヒドロキシアパタイトとよばれるリン酸カルシウムでできています。これはpHが約5.5以下になると急激に溶け出します(下図)。このようにして歯が酸で溶かされることが、むし歯の直接の原因となります。

2.なぜ、全ての歯垢の下にむし歯が発生するとは限らないのか?

普通の食事をしても歯垢のpHは5.5より低くなります。デンプンを食べても歯垢のpHは低下するので、日に3回の食事のたびに歯垢のpHは5.5以下になり、歯が溶かされます。
しかし、食事のときには唾液が多く分泌され、歯垢中の酸は唾液の成分(重炭酸塩など)で中和され、歯垢のpHは上昇します(下図)。
そこで、歯から溶けだして歯垢の中にあったリン酸とカルシウムは、歯の表面に再び沈着し、歯が修復されます。唾液の中にもリン酸とカルシウムが多く含まれていますから、これらも歯に沈着して、歯を修復します。それゆえ、1日に3回の食事をしているだけでは、簡単にむし歯にはなりません。


3.なぜおやつを食べると
むし歯になり易いか?

食事の間に間食をすると、歯が修復される間もなく歯垢の中で再び酸がつくられ、歯垢のpHが低下して歯が溶け続けます(下図)
ついには、歯の修復が追いつかなくなって、初期のむし歯が発生することになります。

ことに眠る前に甘いものを食べると歯垢のpHは、低下したまゝ回復せず、pH低下が少なくとも数時間以上続きます。これは、眠っている間は、唾液がほとんど分泌されないためです。「歴史は夜つくられる」などと言われますが、「むし歯は夜つくられる」ことが多いと考えられます。


4.歯垢中で酸をつくる細菌は
ミュータンス菌だけ?

さて、このような話をすると、「歯垢中でミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス;ミュータンス・レンサ球菌)が砂糖から酸をつくり」と説明する人がいます。しかし、歯垢中に棲んで酸をつくる細菌は、ミュータンス菌を含むレンサ球菌、アクチノミセスなど数多くいます。むしろ、ほとんどの細菌が糖から酸をつくると言っても良いでしょう
下表は、人の歯垢中のレンサ球菌とミュータンス菌の数を調べ、その歯垢に糖を与えたときに達した最低pHを測定したものです。ミュータンス菌の数は一般にきわめて少ないのですが、ほとんどこの菌がいなくても、歯垢のpHは歯を溶かす(むし歯をつくることのできる)値である5.5以下に低下していることがわかります。歯垢でつくられる酸の大部分はミュータンス菌以外のレンサ球菌やアクチノミセスでつくられているのです。


5.甘いものを食べなければ
むし歯にならない?

1日3回の食事の時にも歯垢のpHは5以下に低下します。しかし、食事の時に砂糖の入った甘いものを食べなければ歯垢のpHは低下しないのではないかと考える人がいるのではないでしょうか。
実は、ご飯やパン、うどんなどの主成分であるでんぷんを食べても、歯垢の中で酸がつくられ、歯垢のpHは5まで下がってしまいます。
 これは、唾液の中のアミラーゼという酵素がでんぷんの一部を分解し、マルトースやグルコ-スなど歯垢中の細菌で分解される糖に変えてしまうためです。すなわち、ほとんどの人は食事の度に歯を溶かしていると考えられます。
でんぷんを主成分として砂糖を含まない食品にはむし歯をおこす能力があるかどうかは、永い間、議論されてきました。しかし、最近の研究結果により、砂糖ほど強くないにしても、でんぷん製品にもむし歯をおこす能力あるとの結論に達しました。ですから、夜寝る前にポテトチップスを食べるようなことをするとむし歯をおこす危険が多くなります。
むし歯をおこす能力のある、すなわち、歯垢中で酸に変えられるものは、このほかに、グルコ-ス(ぶどう糖)、フルクト-ス(果糖)、マルトース(麦芽糖)、乳糖など多くのものがあります。ことに最近では、加工食品の中にグルコ-スとフルクト-スの混合物である異性化糖が多く使われています。砂糖が含まれていないから歯に安全とは限りません。砂糖を0にするとむし歯が0になるわけではありません。

「歯に信頼」マーク
最近では、ソルビト-ル、キシリトール、マルチトール、アスパルテームなど、歯垢で酸をつくる材料とならない甘味料が多く開発されています。また、歯垢のpHを5.7より低下させない歯に安全なお菓子が「歯に信頼マーク」をつけて市販されています。間食には、このようなものを食べるようにすればよいのです。 

6.ミュータンス菌はむし歯菌?

新聞やテレビの報道で、ときどきミュータンス菌のことをむし歯菌と言っています。このように言われると、ミュータンス菌を退治すればいくら砂糖を食べてもむし歯にならないと誤解をする人がでてきます。口の中で、酸をつくる細菌がミュータンス菌しかいないような動物では、ミュータンス菌を退治すれば、砂糖をたべさせてもむし歯になりません。ただ、口の中にミュータンス菌以外にも酸をつくる細菌がたくさんいるヒトの場合は違います。
最近、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカなどのむし歯の発生率と口の中のミュータンス菌の数を詳細に検討した結果が論文として発表されました。下のタイトルの論文で、ミュータンス菌の数よりも、食習慣の方がむし歯の発生に大きな影響を受けることが証明されました。
英国グラスゴーでの国際会議でも、むし歯をおこす能力の強い細菌は少なくとも次の三つであることが承認されました。それは、ミュータンス・レンサ球菌(ミュータンス菌)、乳酸桿菌、低pHレンサ球菌で、これら一つの菌の数よりも、歯垢中の菌のバランスが重要であると結論されました。ミュータンス菌の数を減らすとむし歯が減ると言う「お話」は、風が吹けば桶屋が儲かる話と同じようなことです。
結核やエイズは、それぞれ結核菌、エイズウィルスという特定の微生物に感染しなければ病気にならず、これらの微生物が絶滅すれば病気も絶滅します。しかし、ミュータンス菌が絶滅しても、むし歯は絶滅しません。歯の表面を覆うエナメル質という細胞が全くないところで発生するむし歯という病気の大きな特徴なのです。

ウ触の発生は、ミュータンス・レンサ球菌の数よりも、食生活に影響される。
J Dent Res 75(1): 535-545, (1996)

7.不溶性グルカンの合成を抑えると、歯垢の形成が抑制できる?

「ミュータンス菌がスクロ-ス(砂糖)から不溶性グルカンをつくり、歯の表面に付着して歯垢をつくる」という話を耳にします。ネズミの口にミュータンス菌だけを感染させ、56%もの砂糖を含む餌を毎日食べさせると、ミュータンス菌のつくる不溶性グルカンで歯が覆われてしまうほどになります。
しかし、毎日56%も砂糖を含むものだけを食べているのではないヒトの場合、歯垢中の不溶性グルカンの量は10%以下です。不溶性グルカンは、スクロ-スだけからつくられ、グルコ-スやフルクト-スからはつくられません。また、遺伝性の病気でスクロ-スをほとんど食べられない人の歯垢の量は、健康の人と変わりません。
 
 上記の表からスクロ-スを食べない患者では、ミュータンス菌が減っているのではないかと考えるかもしれません。しかし、不溶性グルカンをつくれない乳酸桿菌も減っています。この菌は、ミュータンス菌以上に酸に強い(耐酸性)菌です。
 
  HFI
患者 
普通
の人 
平均年齢  29.1  26.5 
 むし歯罹患率    
  歯の数   2.1 14.3 
  歯面の数  3.3  36.1 
  むし歯
ゼロの人 
59%  0% 
 歯垢の量
(歯垢係数
1.2  1.2 
砂糖の消費     
   砂糖を含む食品
の摂取頻度
0.83  4.32 
   砂糖の消費量
(一人一日当たり)
0.83  4.32 
歯垢中の細菌
の検出頻度 
   
   ミュータンス・
  レンサ球菌
26%  72% 
   乳酸桿菌 10%  40% 
 HFI患者でミュータンス菌が減ったのは、不溶性グルカンがつくれなかったためではなく、砂糖などを食べて、歯垢のpHが低下し、酸に曝される機会が減り、酸に弱い菌が優勢となったためと理解されます。
 よく、「不溶性グルカンの生成を阻害する物質を発見した。これは、むし歯の原因となる歯垢の形成を阻害する。それ故、このものはむし歯の発生を阻害し、むし歯予防に使える」と言うような、新聞記事を見かけますが、これは、「風が吹けば桶屋が儲かる」論理と同じです。
歯垢の量が半分になったからと言って、むし歯の発生が半分になるわけでないことは、数え切れないほどの多くの研究結果が示している科学的な常識です。

8.シュガーレスのお菓子は
むし歯の原因にならない?

最近、厚生省で規則がつくられ、糖アルコール以外の単糖類、二糖類が0.5%以下含まれているものに、シュガーレス、ノンシュガー、シュガーフリーなどの表示が許されることになりました。これらの表示が野放し状態のときより改善されました。
ほとんどの単糖類、二糖類は歯垢中の細菌で分解され、酸をつくる材料となります。すなわち、むし歯をおこす力を持っています。
それでは、シュガーレスなどと表示されたお菓子は歯に安全かというと、必ずしもそうではありません。三糖類、多糖類などの中にも、むし歯をおこす力をもつものがあるからです。
上の図は、世界四カ所にあるトゥースフレンドリー協会公認の検査機関で、あるシュガーフリーの飴がどのくらい歯垢のpHを落とすかを調べたものです。
すべての検査機関で、この飴は歯垢のpHを5前後まで、低下させ、歯に安全とは云えないとの結論を出しました。

9.むし歯になりやすいかどうかはお菓子の成分で判定できる?

シュガーレスなどの表示は、お菓子の成分に基づく表示です。しかし、あるお菓子がむし歯の原因にならないかどうかは、成分だけから決めることは困難です。
例えば、お菓子に酸味を与えるため、クエン酸などがよく添加されます。これを入れすぎると、酸ですから歯垢や唾液のpHを低下させ、歯に安全とは云えなくなりますが、適量入れると唾液の分泌を促進し、かえって歯垢のpHを低下しにくくします。
下図は、トローチをなめさせたときと、そのトローチを水に溶かして口に入れたときの歯垢のpH変化を記録したものです。
成分は同じなのに、トローチ溶液では歯垢のpHが5以下に低下します。固体のトローチを舐めてときには、唾液がたくさん出て、酸が中和され、歯垢のpHが低下しなかったのです。
成分が同じでも、形が違っただけで、歯に安全かどうか変わってきます。むし歯になりやすいかどうかは、成分ではなく、食品全体で判定しなければなりません。もっとも、砂糖が入っていれば、むし歯の原因となることは確実です
 日本で食品全体でテストをしているのは、厚生省が行っている特定保健用食品と、国際組織であるトゥースフレンドリー協会が認定した「歯に信頼マーク」付きの食品だけです(上図)。

それゆえ、特定保健用食品のむし歯に関する表示か、「歯に信頼マーク」の付いたものでないと、本当に歯に安全かどうかは、保証できません。

10.キシリトール入りのお菓子は歯に安全?

「キシリトール入り」とお菓子の包装に大きく書いたお菓子も売られています。多くの人は「キシリトールが入っているから歯に安全」と考えるようです。
しかし、中には、キシリトールとともに、砂糖がたっぷり入ったお菓子もあります。このようなお菓子は当然むし歯の原因になります。
キシリトールは独特の清涼感を与えますから、お菓子の味付けにこのような使い方をするのは悪くはありません。しかし、包装に大々的に書くのは、消費者の上のような誤解を期待しているようで、感じの悪いものです。

11.キシリトールは
「天然素材甘味料」?

キシリトールの宣伝に、よくこの糖は「天然素材甘味料」であるとの表現がされます。「人工甘味料」と言われるよりは、安全な感じがします。
キシリトールは天然物であるトウモロコシの芯を素材として、下図のような化学工程を経てつくられますから、これは、いわゆる人工甘味料です。 。
天然物の中にもキシリトールを含むものがあるという点では、天然には存在しない甘味料とは違いますが。天然物を素材としない人工物などありません。この言葉は、「天然」と言う言葉が入ると消費者が安心するという錯覚を利用したまやかしの言葉です。

トリカブトの毒も、マムシやフグの毒も天然物です。天然すなわち安全というわけではありませんし、人工物すなわち害があるということでもありません。

12.甘いものを食べても、
キシリトール入りのガムを咬めばむし歯にならない?

チューインガムなどよく咬むことを必要とするものを食べると、唾液の分泌が促進されます。項目2にあるように、唾液が分泌されると、その緩衝作用によって酸が中和され、歯垢のpHがあがります。
それゆえ、ジュースのようなものを飲んだあとに、酸の材料となるような糖を含まないチューインガムを咬めば、歯垢のpHは上昇し、歯は修復されます。
しかし、飴のように糖の濃いものを食べたあとには、容易なことでは歯垢のpHはあがりません。 
 
ジュースならばいつでも上昇するわけではありません。歯垢のつく場所によっては、唾液の達しにくいこともあります

食事をしたあとや、コーヒー、ジュースなどを飲んだあとに、「歯に信頼マーク」の付いたガムを咬むのは悪いことではありません。むしろ、勧めるべきことでしょう。しかし、これに頼り切ってはいけません。

13.キシリトールの
抗齲蝕誘発性?

キシリトールには抗齲蝕誘発性、すなわち、砂糖などのむし歯を起こす力をうち消す作用があるようなことが言われています。
下の図は、0.5%の砂糖を人の歯垢の上に滴下したときと、0.5%の砂糖に9.5%のキシリトールを加えて、滴下したときの歯垢中のpH変化を調べたものです。砂糖の20倍ものキシリトールを加えても、砂糖による歯垢のpH低下を抑えることはできません。
これでは、キシリトールに抗齲蝕誘発性があるとは云えません。
 
試験管のなかでの、ある特定の細菌に対する効果を拡大解釈して、キシリトールに抗齲蝕誘発性ある、むし歯の発生を防ぐような作用があると言うのは、間違いです。

14.キシリトールはむし歯を治す?

よく、キシリトール入りのガムを食べるとむし歯が治るような話を耳にします。
キシリトールなど酸をつくらない甘味料を含むチューインガムを咬むと、歯垢のpHを下げることなく唾液の分泌が促進されます。その結果、唾液に含まれるリン酸やカルシウムが歯に沈着して歯の修復を助けます(上記2参照)。
これは、キシリトール自身が歯の修復を助けるのではなく、pHを下げることなく唾液の分泌を促進した結果です。
ですから、これまで多く使われている酸の材料とならない甘味料で味付けしたチューインガムを咬んでも同じ効果が見られるのです。

15.キシリトールが50%以上入っていなければ、
むし歯予防効果はない?

最近、新聞やテレビの報道で、キシリトールの濃度が50%以上なければむし歯予防効果がないように言われています。
たとえキシリトールが95%入っていても、砂糖が5%入っていれば、歯垢のpHを危険ゾーンにまで低下させ、むし歯を起こす可能性があります(上記13の図)。夜寝る前に食べたりしたら、とんでもないことになります。
上の図(Kandelman, 1990による)のように、キシリトールを15%(他にソルビト-ルを含む)含んだガムを咬んだ人でも、65%含んだガムを咬んだ人と同じように、むし歯の発生がガムを咬まない人(Control)よりも減っています。
食品のウ蝕誘発性はキシリトールの量だけで決まるのではありません。食品全体として評価しなければならないのです(上記9)。

16.FDI賛助商品は歯に安全?

「FDI(国際歯科連盟)賛助商品」という表示をしたお菓子があります。

多くの消費者は、国際歯科連盟が賛助しているので歯に安全だろうと誤解をしているようです。しかし、このような表示をしたお菓子のなかには、砂糖が入っており、明らかにむし歯の原因となり得るものがあります。

業者によりますとこれは「国際歯科連盟を賛助する商品」とのことですが、大部分の人は「国際歯科連盟が賛助する商品」と理解しています。

私も、誤解を招きやすい表示として国際歯科連盟に抗議しましたが、聞き入れてもらえませんでした。

17.歯に危険なのはお菓子だけ?

むし歯についてはお菓子にだけ気をつけていればと考えている人が多いのではないでしょうか。実は、お菓子以外にも、歯に危険なものが多いのです。
例えば、のど飴やトローチの類、そして子供用のシロップに溶かした薬などです。
トローチはできるだけゆっくり舐めるものですから、砂糖が入っていると長い時間、歯垢のpHが低下し続け、むし歯になり易くなります。子供用のシロップ系の薬は、飲んだあと眠ってしまうことが多いので、大変危険です。
 上の図のように、シロップを口に入れると歯垢のpHは低下してしまいます。しかし、薬を飲ませないわけにはいきませんので、そのあとに水でうがいをさせてシロップを流し出してしまえばと考えて、図のように7回もうがいさせました。しかし、シロップによる歯垢pHの低下を防ぐことはできませんでした。
 ヨーロッパでは、トローチにも「歯に信頼マーク」の付いたものが市販されていますし、子供用のシロップ系薬剤をむし歯にならないものに変えようとしています。
しかし、日本では、消費者の関心が薄いため、製薬会社も関心がなく、ヨーロッパで「歯に信頼マーク」付きで売られているのと同じトローチが、日本では砂糖入りで売られています。

18.お菓子を食べたあとにお茶を飲めば歯に安全?

上記12で述べたように、チューインガムを咬むと唾液の分泌が促進され、歯垢のpHを上昇させ、歯の修復を促進することができます。

同じように、梅干しやスルメも唾液の分泌を促進しますから、砂糖の溶液を飲んだあとにこれらのものを食べると歯垢のpHが上昇してきます。
よく、羊羹を食べても、そのあとにお茶を飲んで糖を薄めればよいようなことを言っている人がいます。
しかし、上の図の矢印のところでお茶を飲んでも、歯垢のpHはさっぱりあがりません。唾液の緩衝能(酸を中和してpHを上げる力)に比べれば、お茶にはほとんど緩衝能がないからです。
疑問17の水の例もそうですが、これらのデータは、逆に、唾液の偉大さを改めて感じさせるものです。
お茶の中に、むし歯を予防する作用のあるフッ素が入っていますが、これは、また、別の話です。お茶には、その他にもむし歯を予防するようなものが入っていますが、それは疑問19で。

19.むし歯にならない塩入羊羹の怪?

お茶やウーロン茶、チョコレート、黒砂糖など種々のものの中に、むし歯の発生を予防する物質が入っています。昔、ある大学の先生がこのことを変に解釈して、黒砂糖はむし歯の原因にならないと教科書に書いたことがあります。
しかし、これは笑い事ではありません。最近、ウーロン茶などからむし歯を予防するものを抽出して、砂糖の入ったお菓子に入れ、「むし歯にならない〇〇入り」と表示しているものがあります。
このお菓子は当然むし歯の原因になります。
むし歯を防ぐようなものが入っても、砂糖のむし歯になる力を100として、これを99.999にするようなものです。砂糖という横綱と赤ん坊が力比べをしているようなものです。
羊羹には、味付けのため少量の塩が入っています。砂糖をたっぷり使ったこのような羊羹に「むし歯にならない塩入りの羊羹」と表示するようなものです。塩はむし歯の原因になりませんから、これはウソではありません。
しかし、消費者の誤解を期待する、このような表示には怒りを感じます。疑問10で述べた、「キシリトール入り」と表示したお菓子と同罪です。

20.砂糖の消費量を減らすと
むし歯が減る?

むし歯を予防するために砂糖の消費を半分にしたと自慢する人がいます。しかし、砂糖の消費量よりは、食べる頻度とその時間の方がむし歯の発生には遙かに大きな影響を与えます。
上の図はは、スウェーデンのビペホルム精神病院で行われた有名な実験で、患者さんに砂糖入りのお菓子を食事の時間だけ与えてときと、間食に与えたときのむし歯の発生率を観察したものです。
破線で表す食事の時間に食べたときはあまりむし歯は増えませんが、同じ量のお菓子を実線で表した間食に食べると、むし歯が急激に増えることがわかります。

8個の3倍(24個)のトフィー(キャラメルのようなお菓子)を食べても、食事の時間に食べると、間食に8個を食べるときよりも、むし歯はずっと少なくなります。
 
図を見てみますと、砂糖を頻繁に食べ、歯垢のpHを下げっぱなしにする方が、どうせpHが下がっている食事のときに砂糖を食べるより、遙かにむし歯になりやすいことが理解できると思います。 

21.歯磨きだけで
むし歯は予防できる?

「あなたはむし歯予防のために何をしていますか」との答えに、「歯を磨いています」と言う人が最も多いようです。
しかし、普通に歯を磨いただけでは、歯垢の40~60%は残ってしまうと言われますことに、むし歯が多い歯の溝の部分には、歯ブラシの毛先が入りません。次にむし歯が多い歯と歯の間の歯垢もとれにくいものです。一生懸命に歯磨きしたあと、歯間ブラシやフロス(糸楊枝)を使ってみると、たくさんの歯垢や食べ物のかすが残っているのに気付くでしょう。
上の図のように、歯磨きの回数で、それほどむし歯の発生率が変わるわけではありません。
国際的な歯科研究者のあいだでは、歯磨きは歯周病の予防には効果が大きいが、むし歯の予防にはあまり効果がないということになっています。
歯磨きすることは(研磨剤のたくさん入った歯磨きを使ってよっぽどごしごしこすらない限り)悪いことではありませんし、推奨すべきことです。しかし、甘いものを食べても歯磨きすれば大丈夫と言うようなことを考えては困ります。

 22.歯磨きは
  食後でなければならない?

もう20年以上前になるでしょうか、あるお医者さんが健康に関する本を書き、ベストセラーになりました。その中に、下図の私たちの研究結果を引用して、歯垢のpHが落ちて歯が溶ける前に歯を磨いて酸をとってしまわなければならないと書きました。
私は、むし歯のことを知らないお医者さんがとんでもない間違いをするものだと思いましたが、こんな馬鹿な話はそのうち消えるだろうと考え、放っておきました。何年かのち「一日3回、食後3分以内・・・」と言う話が広がり、びっくりしました。
上の図をよく見て下さい。これは、食後ではなく食べ初めてから3分以内にpHが下がるのです。この論理によると、食べ初めてから3分以内に歯を磨かなければならないのです。
歯磨きは食前にすべきか、食後にすべきか種々の議論があり、どちらの方が良いとも決めかねます。

「歯垢がなくなれば、pHが落ちないのだから、食前に歯を磨いてしまえばいい」と言う人もいますが歯垢を完全に除去することは不可能ですから、これは机上の空論です。

また、上記2に書いてあるように、「歯垢のpHがあがったときの歯の修復材料となるリン酸とカルシウムが歯垢中にたくさん溜まっているので、食後歯を磨いてこれをとってしまうと修復を阻害する」と主張する人もいます。

しかし、これとても、歯を磨かないで歯垢のpHを永いこと低下させておくのが良いとも云えません。いずれにしろ、食前、食後いずれに歯を磨くべきかというしっかりした根拠は見あたりません

私は、どちらと結論する自信もありません。

ただ、歯垢を効率的に減らすと言う観点からすると、歯垢が最もよく増えやすい睡眠の前に、細菌の栄養を少なくしておくために歯をみがき、歯垢が増えたあとの朝起きたときに歯を磨くのは良いのではないかと思います。

23.妊娠中は胎児にカルシウムをとられ、歯が弱くなる?

多くの人は、母親は妊娠中には胎児にカルシウムをとられ、その結果歯がむし歯になりやすくなると思っているようです。
しかし、むし歯の起こるエナメル質は、上の図のように、ほとんどが石のようなリン酸カルシウムでできており、細胞は全くありません。カルシウムが不足したという情報は、骨の細胞に伝えられ、そこで、骨細胞が骨を溶かして血液中にカルシウムを出してやりますが、細胞のないエナメル質を溶かすことはできない。
 妊娠中の犬にカルシウムの少ない餌を与え続けると、骨はナイフで削れるほど柔らかくなったが、歯には全く影響がなかったと言う実験(Fisch:1932)は、このことをはっきり示しています。

24.カルシウム入りのお菓子を食べると歯が丈夫になる?

上記と同じように、カルシウムをたくさん食べると歯が丈夫になると思っている人が多いようです。いかにも、歯が丈夫になるようなことを表示したカルシウム入りのお菓子などが売っています。
しかし、上と同じ理由で、カルシウムを十分に摂ると骨は丈夫になるかもしれませんが、歯には全く影響はありません

歯がつくられるときでも、その材料になるカルシウムの供給が不足するほど血液中のカルシウム濃度が低下したら、ヒトは死んでしまいます。

骨が溶かされたり、つくられたりするによって、血液中のカルシウム濃度は、いつも厳密に一定に保たれています。

25.火山国日本では水道水に
フッ素が多い?

先日、「日本は火山国であるから水道水中にフッ素が多い。だから、フッ素過剰症になりやすい」と言う話を聞いてびっくりしました。結構広まっている話らしいのです。

上水道にそんなにフッ素が入っていたら、検査にパスしません。

このような話が、あるために、日本ではむし歯予防のためにフッ素が使いにくくなっているようです。全く根拠のない話が広まるのは、困ったものです。

26.それでは、どうしたらむし歯予防できるの?

むし歯の発生を説明するのに有名なカイス(Keyes)の三つの輪があります(下図)。食べ物、細菌、宿主(歯の形や唾液など)の三つの原因が揃って初めてむし歯になるというのです。
これを逆手にとって、これらのうちの一つをなくせばむし歯にならないと考える人がいます。しかし、このうちの一つを完全になくすことはできません。
上記21で述べたように、歯磨きで完全に細菌をなくすことはできません。また、上記5で述べたように、砂糖を0にしても、むし歯が0になるわけでもありません歯にフッ素を塗ったからといって、砂糖ものをいくら食べてもいいわけではありません。それでは、どうしたらよいのでしょう。
私は、Keyesの三つの輪をまねて、口腔保健の三つの輪を提唱しました(下図)。
歯の健康(口腔保健)のためには、食べ物(ことに間食)の適切な食べ方、フッ素の適切な利用、歯磨き(歯ぐきの病気には大きな予防効果があります)の三つを同時並行して行わなければならない、どれか一つが欠けても、良い口腔保健は達成できないと言うものです。
そのうち、これが「Yamadaの三つの輪」と呼ばれるようにならないかな、と勝手なことを考えています。
 
歯の健康、
口の健康を保つために4つの提案 
1. 間食には歯に信頼マークのついたお菓子を.
2. 寝る前には食べない.
3. 口腔清掃(歯みがき)を忘れずに.
4. できればフッ素入りの歯みがきで.