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甘味料は、砂糖以外にも種々のものがあり、種々の食品に使われています。 右図に示すように、非糖質性甘味料はウ蝕の原因になりません。糖質性甘味料は、多から少なかれ、ウ蝕の原因となりうるものが多いのですが、糖アルコールはウ蝕の原因になりません。
糖アルコールとは、グルコ−ス(ぶどう糖)やフルクト−ス(果糖)のような糖に水素を添加したものです。
右表(砂糖を100としたときの値)のように、糖アルコールは砂糖に比べ甘みが少ないという問題があります。 しかし、キシリトールは砂糖と同程度の甘さがあり、これがキシリトールを甘味料として使うときの大きな利点になります。他のウ蝕をおこす糖で甘みを補わなくとも、十分な甘みをつけることができるのです。
キシリトールはむし歯を起こさない甘味料です。しかし、これまでもソルビト−ル、マルチトール、エリスリトールなど、キシリトールと同様にむし歯を起こさない糖アルコールが甘味料として多く使われています。これらの糖に比べて、キシリトールだけがむし歯を起こす力が特段に低いわけではありません。 1996年8月、米国のFDA(食品医薬品局)は、食品に「Does not promote tooth decay(むし歯を起こさない)」と表示するためには、国際トゥースフレンドリー協会が行っているのと同じ方法で、歯垢のpHを5.7より低下させないことが必要だとする法律を発表しました。この法律の中では、これら糖アルコールの間にむし歯を起こす力の差は認めていません。
*1 ウ触誘発性とは、むし歯になりやすさのこと
「抗ウ蝕誘発性」、すなわち「むし歯を起こす力に対抗する」という表現は、消費者の誤解を招きやすいとして、国際的には「絶対にさけるべきだ」との見解が大勢を占めています。しかし、キシリトールについては、抗ウ蝕誘発性があるかような説明がしばしばされています。
キシリトール入りのチューインガムを長期に食べ続けると、ミュータンス・レンサ球菌の数が減るという報告はいくつかあります。しかし、これは上記の無益回路によって菌が死ぬというよりは、歯垢のpHを頻繁に下げないためと考えられます。 ミュータンス・レンサ球菌や乳酸桿菌、低pHレンサ球菌などはpHの低い状況で生き残る力(耐酸性)の強い、それゆえむし歯を起こす力の強い細菌です。そのため、頻繁に間食し、歯垢のpHが頻繁に低下する環境では、これら耐酸性の強い菌は優勢になります。これに対し、pHがあまり低下しない環境では、他の菌が優勢になります。
ですから、ミュータンス・レンサ球菌の数を減らす効果は、キシリトール独特のものではなく、歯垢のpHを低下させないマルチトールやエリスリトールなどでも同じ効果があると考えられます。私の研究室では学生に2ヶ月間にわたってキシリトール入りのガムを毎食後(1日3回)食べさせましたが、唾液中のミュータンス・レンサ球菌の数は減少しませんでした。
また、キシリトールは齲窩(むし歯でできた穴)の再石灰化(修復)を促進するとの議論をしばしば耳にします。確かに、キシリトール入りの(酸をつくらせない)チューインガムを長期に食べると、浅い齲窩が再石灰化される様子が見られることがあります。 1996年、キシリトール研究の先駆者であるMakinen教授が日本で講演したとき、私はこれについて質問をしました。
すなわち、キシリトールなど酸をつくらない甘味料を含むチューインガムを咬むと、唾液の分泌が促進されて歯垢のpHが上昇します。その結果、唾液などに含まれるリン酸やカルシウムが齲窩に沈着して再石灰化したのではないか。すると、これは、キシリトール独特の現象ではなく、酸をつくらない他の糖アルコールでも同じように見られるのではないかと質問しました。これに対してMakinen 教授は、その通りであると答えています。
すなわち、キシリトール入りのガムでなくとも、ソルビト−ル、マルチトール、エリスリトールなど他の糖アルコールが入ったチューインガムでも同じ結果が期待されることを、Makinen 教授は認めています。
このような結果を踏まえ、アメリカの食品医薬品局(FDA)およびEUの委員会は、キシリトール、ソルビト−ル(ソルビット)、マンニトール(マンニット)、マルチトール(還元麦芽糖)、ラクチトール、還元麦芽糖水飴、還元グルコ−スシロップなどの間にウ蝕誘発性の違いを認めていないのです。
もちろん、キシリトールの抗ウ蝕誘性などは認めていません。後述のように、砂糖の10倍以上入っていても、砂糖のむし歯を起こす力を消すことのできないものを「抗ウ蝕誘発性がある」と言うことは、大きな誤解を招きます。
日本でこのように食品全体のテストをしているのは、厚生省が行っている特定保健用食品と、国際的な組織で行っているトゥースフレンドリー協会が認定した「歯に信頼マーク」の付いた食品だけです(左図)。 それゆえ、「むし歯にならない〇〇入り」は消費者の誤解を招く表現であり、キシリトールが入っていても、特定保健用食品のむし歯に関する表示か、トゥースフレンドリー協会の「歯に信頼マーク」の付いたものでないと、本当に歯に安全かどうかは、保証できません。
このように、種々の甘味料が開発されることは大変有用なことです。甘味料といっても、その甘みの性質が種々異なります。 キシリトールが清涼感のある甘みを持つこともその特徴の一つの例です。また、吸湿性、水溶性の違い、pHや温度による安定性や甘みの変化など、それぞれの甘味料で特徴があります。このような甘味料を組み合わせることにより、多くのおいしい、しかもむし歯にならないお菓子ができるのです。
昔は、砂糖以外の甘味料でつくるお菓子はまずいものと相場が決まっていました。最近では、「こんなにおいしくてむし歯にならないの」と疑いたくなるようなおいしいむし歯にならないお菓子ができています。
上記の他にも、消費者が誤解しやすい(あるいは消費者の誤解を期待している?)食品表示が多くあります。
その一つに「FDI(国際歯科連盟)賛助商品」という表示をしたお菓子があります。多くの消費者は、国際歯科連盟が賛助しているので歯に安全だろうと誤解をしているようです。
しかし、このような表示をしたお菓子のなかに、砂糖が入っており、明らかにむし歯の原因となりうるものがあります。
業者によりますとこれは「国際歯科連盟を賛助する商品」とのことですが、大部分の人は「国際歯科連盟が・・」と理解しています。私も、誤解を招きやすい表示として国際歯科連盟に抗議しましたが、なかなか聞いてもらえませんでした。
また、消費者の中には「人工甘味料」は危険だとの意識を持っている人が多いようです。そのため、「人工甘味料」であるキシリトールに「天然素材甘味料」などという表現がつかわれ、よいイメージを消費者に与えようとします。 しかし、日本で認可されているほとんどの甘味料は、欧米を始め、世界各国でも安全と認定されているものです。すなわち、世界中の科学者が検討して、安全と認定しているのです。
ただ、その摂取量は考えなければなりません。糖アルコールの中でも下痢をしにくいエリスリトールも、これを含むスポーツドリンクを大量に摂取して下痢をおこして問題になりました。また、人工甘味料を日常の食品のなかで完全に砂糖に置き換えるとの考えにも無理があります。糖アルコールを砂糖に完全に置き換えた餌を与え続けると、多くのネズミは死んでしまいます。
この例からも理解されるように、甘味料を含んだ食品は、お菓子、トローチ、シロップ系薬剤など食事以外の時間に摂取されるものに限定し、歯垢のpHを低下させる頻度を下げてむし歯を予防するために使用されるべきです。
食事の味付けにこれらの代用甘味料を日常使用することは、少なくとも、むし歯予防の観点からは無駄なことです。
キシリトールは、非ウ蝕誘発性、すなわちむし歯を起こさないすばらしい甘味料であり、このような甘味料の食品への使用が許可されたことは、むし歯予防の観点から喜ぶべきことです。 ことに、これまで使用されている糖アルコール性甘味料の多くが砂糖の半分程度の甘みしかないのに、キシリトールは砂糖と同程度の甘さがあることは、おいしく、しかも、むし歯にならないお菓子をつくるためには大きな利点です。
しかし、キシリトールは今まで使用されている種々の甘味料に比べ、むし歯に対する効果の面で格段と優れているわけではありません。
重要なことは、ある食品がむし歯を起こすかどうかは、キシリトールの量などその成分だけでは決められず、必ず食品全体として考えなければならないことです。
現在のところ、食品全体でウ蝕誘発性を評価しているのは、トゥースフレンドリー協会による「歯に信頼マーク」をつけるシステムと、厚生省の特定保健用食品(マークだけではなく、歯に関する表示がないとだめ)しかありません。これらのどちらかの表示のない食品については、成分だけでむし歯になるかどうかを評価することはできません。
むし歯になるかどうかは、「何が入っているか」よりも、むしろ「何が入ってないか」が重要な決定因子になります。