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新聞やテレビ、インターネットなどは人々に多くの情報をもたらします。しかし、誤った情報も氾濫しています。人々を驚かせるような刺激的な、しかし間違った情報は、よくマスコミで取り上げられます。「むし歯はストレスによって起こる」というような科学的根拠のない、刺激的な説にマスコミが飛びつき、報道されてきました。 歯科・口腔保健に関しても、このような間違った情報が常識として定着してしまったものもあります。ここに、あげるいくつかの例は、これらの中のほんの一部にすぎません。日本の12歳児の子供のむし歯(齲蝕)の数が、欧米諸国に比べて2〜4倍も多い(図1)(図はここをクリック)のも、実はこの誤った情報にも大きな原因があるのです。情報化時代には、正しい情報と誤った情報を見分けることがきわめて重要となります。 これらのことが間違っていると理解するためには、齲蝕の発生する原理について知っておく必要があります。 |
砂糖の摂取がむし歯の大きな原因になっていることは、よく知られています。砂糖を食べると、歯垢(プラーク)の中に棲む細菌は砂糖(グルコ−ス、フルクト−スなどでも同様)を分解して酸に変え、その結果、歯垢のpHが低下します(酸が増えるとpHは低下し、酸が減ると上昇します)。
下図に見られるように、歯垢のpHは、砂糖を食べると5以下になります。一方、歯の表面を覆うエナメル質はヒドロキシアパタイトとよばれるリン酸カルシウムでできています。これはpHが約5.5以下になると急激に溶け出します(右図)。このようにして歯が酸で溶かされることが、むし歯の直接の原因となります。 |
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普通の食事をしても歯垢のpHは5.5より低くなります。デンプンを食べても歯垢のpHは低下するので、日に3回の食事のたびに歯垢のpHは5.5以下になり、歯が溶かされます。 しかし、食事のときには唾液が多く分泌され、歯垢中の酸は唾液の成分(重炭酸塩など)で中和され、歯垢のpHは上昇します(右図)。そこで、歯から溶けだして歯垢の中にあったリン酸とカルシウムは、歯の表面に再び沈着し、歯が修復されます。唾液の中にもリン酸とカルシウムが多く含まれていますから、これらも歯に沈着して、歯を修復します。それゆえ、1日に3回の食事をしているだけでは、簡単にむし歯にはなりません。 |
ところが、食事の間に間食をすると、歯が修復される間もなく歯垢の中で再び酸がつくられ、歯垢のpHが低下して歯が溶け続けます(下図)。ついには、歯の修復が追いつかなくなって、初期のむし歯が発生することになります。 ことに眠る前に甘いものを食べると歯垢のpHは、低下したまゝ回復せず、pH低下が少なくとも数時間以上続きます。これは、眠っている間は、唾液がほとんど分泌されないためです。「歴史は夜つくられる」などと言われますが、「むし歯は夜つくられる」ことが多いと考えられます。 |
さて、このような話をすると、「歯垢中でミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス;ミュータンス・レンサ球菌)が砂糖から酸をつくり」と説明する人がいます。しかし、歯垢中に棲んで酸をつくる細菌は、ミュータンス菌を含むレンサ球菌、アクチノミセスなど数多くいます。むしろ、ほとんどの細菌が糖から酸をつくると言っても良いでしょう。 |
下の表は、人の歯垢中のレンサ球菌とミュータンス菌の数を調べ、その歯垢に糖を与えたときに達した最低pHを測定したものです。ミュータンス菌の数は一般にきわめて少ないのですが、ほとんどこの菌がいなくても、歯垢のpHは歯を溶かす(むし歯をつくることのできる)値である5.5以下に低下していることがわかります。歯垢でつくられる酸の大部分はミュータンス菌以外のレンサ球菌やアクチノミセスでつくられているのです。 よく、ミュータンス菌を駆除すれば、歯垢で酸がつくられなくなるように考えている人がいますが、これは間違いです。 |
疑問2で述べたように、1日3回の食事の時にも歯垢のpHは5以下に低下します。しかし、食事の時に砂糖の入った甘いものを食べなければ歯垢のpHは低下しないのではないかと考える人がいるのではないでしょうか。 | |
実は、ご飯やパン、うどんなどの主成分であるでんぷんを食べても、歯垢の中で酸がつくられ、歯垢のpHは5まで下がってしまいます(右図)。これは、唾液の中のアミラーゼという酵素がでんぷんの一部を分解し、マルトースやグルコ−スなど歯垢中の細菌で分解される糖に変えてしまうためです。すなわち、ほとんどの人は食事の度に歯を溶かしていると考えられます。 | |
でんぷんを主成分として砂糖を含まない食品にはむし歯をおこす能力があるかどうかは、永い間、議論されてきました。しかし、最近の研究結果により、砂糖ほど強くないにしても、でんぷん製品にもむし歯をおこす能力あるとの結論に達しました。ですから、夜寝る前にポテトチップスを食べるようなことをするとむし歯をおこす危険が多くなります。 むし歯をおこす能力のある、すなわち、歯垢中で酸に変えられるものは、このほかに、グルコ−ス(ぶどう糖)、フルクト−ス(果糖)、マルトース(麦芽糖)、乳糖など多くのものがあります。ことに最近では、加工食品の中にグルコ−スとフルクト−スの混合物である異性化糖が多く使われています。砂糖が含まれていないから歯に安全とは限りません。砂糖を0にするとむし歯が0になるわけではありません。 |
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最近では、ソルビト−ル、キシリトール、マルチトール、アスパルテームなど、歯垢で酸をつくる材料とならない甘味料が多く開発されています。 また、歯垢のpHを5.7より低下させない歯に安全なお菓子が「歯に信頼マーク」をつけて市販されています。間食には、このようなものを食べるようにすればよいのです。 |
歯に信頼マーク |
新聞やテレビの報道で、ときどきミュータンス菌のことをむし歯菌と言っています。このように言われると、ミュータンス菌を退治すればいくら砂糖を食べてもむし歯にならないと誤解をする人がでてきます。口の中で、酸をつくる細菌がミュータンス菌しかいないような動物では、ミュータンス菌を退治すれば、砂糖をたべさせてもむし歯になりません。ただ、口の中にミュータンス菌以外にも酸をつくる細菌がたくさんいるヒトの場合は違います。 最近、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカなどのむし歯の発生率と口の中のミュータンス菌の数を詳細に検討した結果が論文として発表されました。下のタイトルの論文で、ミュータンス菌の数よりも、食習慣の方がむし歯の発生に大きな影響を受けることが証明されました。 英国グラスゴーでの国際会議でも、むし歯をおこす能力の強い細菌は少なくとも次の三つであることが承認されました。それは、ミュータンス・レンサ球菌(ミュータンス菌)、乳酸桿菌、低pHレンサ球菌で、これら一つの菌の数よりも、歯垢中の菌のバランスが重要であると結論されました。ミュータンス菌の数を減らすとむし歯が減ると言う「お話」は、風が吹けば桶屋が儲かる話と同じようなことです。 結核やエイズは、それぞれ結核菌、エイズウィルスという特定の微生物に感染しなければ病気にならず、これらの微生物が絶滅すれば病気も絶滅します。しかし、ミュータンス菌が絶滅しても、むし歯は絶滅しません。歯の表面を覆うエナメル質という細胞が全くないところで発生するむし歯という病気の大きな特徴なのです。 |
最近、厚生省で規則がつくられ、糖アルコール以外の単糖類、二糖類が0.5%以下含まれているものに、シュガーレス、ノンシュガー、シュガーフリーなどの表示が許されることになりました。これらの表示が野放し状態のときより改善されました。 ほとんどの単糖類、二糖類は歯垢中の細菌で分解され、酸をつくる材料となります。すなわち、むし歯をおこす力を持っています。 それでは、シュガーレスなどと表示されたお菓子は歯に安全かというと、必ずしもそうではありません。三糖類、多糖類などの中にも、むし歯をおこす力をもつものがあるからです。 |
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右図は、世界四カ所にあるトゥースフレンドリー協会公認の検査機関で、あるシュガーフリーの飴がどのくらい歯垢のpHを落とすかを調べたものです。 すべての検査機関で、この飴は歯垢のpHを5前後まで、低下させ、歯に安全とは云えないとの結論を出しました。 |
シュガーレスなどの表示は、お菓子の成分に基づく表示です。しかし、あるお菓子がむし歯の原因にならないかどうかは、成分だけから決めることは困難です。 例えば、お菓子に酸味を与えるため、クエン酸などがよく添加されます。これを入れすぎると、酸ですから歯垢や唾液のpHを低下させ、歯に安全とは云えなくなりますが、適量入れると唾液の分泌を促進し、かえって歯垢のpHを低下しにくくします。 |
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右図は、トローチをなめさせたときと、そのトローチを水に溶かして口に入れたときの歯垢のpH変化を記録したものです。 成分は同じなのに、トローチ溶液では歯垢のpHが5以下に低下します。固体のトローチを舐めてときには、唾液がたくさん出て、酸が中和され、歯垢のpHが低下しなかったのです。 |
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成分が同じでも、形が違っただけで、歯に安全かどうか変わってきます。むし歯になりやすいかどうかは、成分ではなく、食品全体で判定しなければなりません。もっとも、砂糖が入っていれば、むし歯の原因となることは確実です。 | |
日本で食品全体でテストをしているのは、厚生省が行っている特定保健用食品と、国際組織であるトゥースフレンドリー協会が認定した「歯に信頼マーク」付きの食品だけです(右図)。 それゆえ、特定保健用食品のむし歯に関する表示か、 「歯に信頼マーク」の付いたものでないと、本当に歯に安全かどうかは、保証できません。 |
「キシリトール入り」とお菓子の包装に大きく書いたお菓子も売られています。多くの人は「キシリトールが入っているから歯に安全」と考えるようです。 しかし、中には、キシリトールとともに、砂糖がたっぷり入ったお菓子もあります。このようなお菓子は当然むし歯の原因になります。 キシリトールは独特の清涼感を与えますから、お菓子の味付けにこのような使い方をするのは悪くはありません。しかし、包装に大々的に書くのは、消費者の上のような誤解を期待しているようで、感じの悪いものです。 |
キシリトールの宣伝に、よくこの糖は「天然素材甘味料」であるとの表現がされます。「人工甘味料」と言われるよりは、安全な感じがします。 キシリトールは天然物であるトウモロコシの芯を素材として、右図のような化学工程を経てつくられますから、これは、いわゆる人工甘味料です。 |
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天然物の中にもキシリトールを含むものがあるという点では、天然には存在しない甘味料とは違いますが。天然物を素材としない人工物などありません。この言葉は、「天然」と言う言葉が入ると消費者が安心するという錯覚を利用したまやかしの言葉です。 トリカブトの毒も、マムシやフグの毒も天然物です。天然すなわち安全というわけではありませんし、人工物すなわち害があるということでもありません。 |
チューインガムなどよく咬むことを必要とするものを食べると、唾液の分泌が促進されます。疑問2にあるように、唾液が分泌されると、その緩衝作用によって酸が中和され、歯垢のpHがあがります。
それゆえ、ジュースのようなものを飲んだあとに、酸の材料となるような糖を含まないチューインガムを咬めば、歯垢のpHは上昇し、歯は修復されます。しかし、飴のように糖の濃いものを食べたあとには、容易なことでは歯垢のpHはあがりません。 |
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ジュースならばいつでも上昇するわけではありません。歯垢のつく場所によっては、唾液の達しにくいこともあります。 食事をしたあとや、コーヒー、ジュースなどを飲んだあとに、 「歯に信頼マーク」の付いたガムを咬むのは悪いことではありません。むしろ、勧めるべきことでしょう。しかし、これに頼り切ってはいけません。 |
キシリトールには抗齲蝕誘発性、すなわち、砂糖などのむし歯を起こす力をうち消す作用があるようなことが言われています。 右の図は、0.5%の砂糖を人の歯垢の上に滴下したときと、0.5%の砂糖に9.5%のキシリトールを加えて、滴下したときの歯垢中のpH変化を調べたものです。砂糖の20倍ものキシリトールを加えても、砂糖による歯垢のpH低下を抑えることはできません。 これでは、キシリトールに抗齲蝕誘発性があるとは云えません。 |
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よく、キシリトール入りのガムを食べるとむし歯が治るような話を耳にします。 キシリトールなど酸をつくらない甘味料を含むチューインガムを咬むと、歯垢のpHを下げることなく唾液の分泌が促進されます。その結果、唾液に含まれるリン酸やカルシウムが歯に沈着して歯の修復を助けます(疑問2参照)。 これは、キシリトール自身が歯の修復を助けるのではなく、pHを下げることなく唾液の分泌を促進した結果です。 ですから、これまで多く使われている酸の材料とならない甘味料で味付けしたチューインガムを咬んでも同じ効果が見られるのです。 |
最近、新聞やテレビの報道で、キシリトールの濃度が50%以上なければむし歯予防効果がないように言われています。 たとえキシリトールが95%入っていても、砂糖が5%入っていれば、歯垢のpHを危険ゾーンにまで低下させ、むし歯を起こす可能性があります(疑問13の図)。 夜寝る前に食べたりしたら、とんでもないことになります。 |
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右図(Kandelman, 1990による)のように、キシリトールを15%(他にソルビト−ルを含む)含んだガムを咬んだ人でも、65%含んだガムを咬んだ人と同じように、むし歯の発生がガムを咬まない人(Control)よりも減っています。 食品のウ蝕誘発性はキシリトールの量だけで決まるのではありません。食品全体として評価しなければならないのです。(疑問9) |
「FDI(国際歯科連盟)賛助商品」という表示をしたお菓子があります。 多くの消費者は、国際歯科連盟が賛助しているので歯に安全だろうと誤解をしているようです。しかし、このような表示をしたお菓子のなかには、砂糖が入っており、明らかにむし歯の原因となり得るものがあります。 |
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業者によりますとこれは「国際歯科連盟を賛助する商品」とのことですが、大部分の人は「国際歯科連盟が賛助する商品」と理解しています。
私も、誤解を招きやすい表示として国際歯科連盟に抗議しましたが、聞き入れてもらえませんでした。 |
むし歯についてはお菓子にだけ気をつけていればと考えている人が多いのではないでしょうか。実は、お菓子以外にも、歯に危険なものが多いのです。
例えば、のど飴やトローチの類、そして子供用のシロップに溶かした薬などです。 |
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トローチはできるだけゆっくり舐めるものですから、砂糖が入っていると長い時間、歯垢のpHが低下し続け、むし歯になり易くなります。子供用のシロップ系の薬は、飲んだあと眠ってしまうことが多いので、大変危険です。(疑問3) 右図のように、シロップを口に入れると歯垢のpHは低下してしまいます。しかし、薬を飲ませないわけにはいきませんので、そのあとに水でうがいをさせてシロップを流し出してしまえばと考えて、図のように7回もうがいさせました。しかし、シロップによる歯垢pHの低下を防ぐことはできませんでした。 |
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ヨーロッパでは、トローチにも「歯に信頼マーク」の付いたものが市販されていますし、子供用のシロップ系薬剤をむし歯にならないものに変えようとしています。
しかし、日本では、消費者の関心が薄いため、製薬会社も関心がなく、ヨーロッパで「歯に信頼マーク」付きで売られているのと同じトローチが、日本では砂糖入りで売られています。 |
疑問12で述べたように、チューインガムを咬むと唾液の分泌が促進され、歯垢のpHを上昇させ、歯の修復を促進することができます。同じように、梅干しやスルメも唾液の分泌を促進しますから、砂糖の溶液を飲んだあとにこれらのものを食べると歯垢のpHが上昇してきます。 | |
よく、羊羹を食べても、そのあとにお茶を飲んで糖を薄めればよいようなことを言っている人がいます。 しかし、右図の矢印(砂糖)のところでお茶を飲んでも、歯垢のpHはさっぱりあがりません。唾液の緩衝能(酸を中和してpHを上げる力)に比べれば、お茶にはほとんど緩衝能がないからです。 疑問17の水の例もそうですが、これらのデータは、逆に、唾液の偉大さを改めて感じさせるものです。 |
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お茶の中に、むし歯を予防する作用のあるフッ素が入っていますが、これは、また、別の話です。 お茶には、その他にもむし歯を予防するようなものが入っていますが、それは疑問19で。 |
お茶やウーロン茶、チョコレート、黒砂糖など種々のものの中に、むし歯の発生を予防する物質が入っています。昔、ある大学の先生がこのことを変に解釈して、黒砂糖はむし歯の原因にならないと教科書に書いたことがあります。 しかし、これは笑い事ではありません。最近、ウーロン茶などからむし歯を予防するものを抽出して、砂糖の入ったお菓子に入れ、「むし歯にならない〇〇入り」と表示しているものがあります。 このお菓子は当然むし歯の原因になります。 むし歯を防ぐようなものが入っても、砂糖のむし歯になる力を100として、これを99.999にするようなものです。砂糖という横綱と赤ん坊が力比べをしているようなものです。 __________________________________________________________________ 羊羹には、味付けのため少量の塩が入っています。砂糖をたっぷり使ったこのような羊羹に「むし歯にならない塩入りの羊羹」と表示するようなものです。塩はむし歯の原因になりませんから、これはウソではありません。 しかし、消費者の誤解を期待する、このような表示には怒りを感じます。疑問10で述べた、「キシリトール入り」と表示したお菓子と同罪です。 |
むし歯を予防するために砂糖の消費を半分にしたと自慢する人がいます。しかし、砂糖の消費量よりは、食べる頻度とその時間の方がむし歯の発生には遙かに大きな影響を与えます。 | |
右の図はは、スウェーデンのビペホルム精神病院で行われた有名な実験で、患者さんに砂糖入りのお菓子を食事の時間だけ与えてときと、間食に与えたときのむし歯の発生率を観察したものです。 破線で表す食事の時間に食べたときはあまりむし歯は増えませんが、同じ量のお菓子を実線で表した間食に食べると、むし歯が急激に増えることがわかります。 8個の3倍(24個)のトフィー(キャラメルのようなお菓子)を食べても、食事の時間に食べると、間食に8個を食べるときよりも、むし歯はずっと少なくなります。 |
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疑問2の図を見てみますと、砂糖を頻繁に食べ、歯垢のpHを下げっぱなしにする方が、どうせpHが下がっている食事のときに砂糖を食べるより、遙かにむし歯になりやすいことが理解できると思います。 |
「あなたはむし歯予防のために何をしていますか」との答えに、「歯を磨いています」と言う人が最も多いようです。 | |
しかし、普通に歯を磨いただけでは、歯垢の40〜60%は残ってしまうと言われますことに、むし歯が多い歯の溝の部分には、歯ブラシの毛先が入りません。次にむし歯が多い歯と歯の間の歯垢もとれにくいものです。一生懸命に歯磨きしたあと、歯間ブラシやフロス(糸楊枝)を使ってみると、たくさんの歯垢や食べ物のかすが残っているのに気付くでしょう。右図のように、歯磨きの回数で、それほどむし歯の発生率が変わるわけではありません。 国際的な歯科研究者のあいだでは、歯磨きは歯周病の予防には効果が大きいが、むし歯の予防にはあまり効果がないということになっています。 |
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もう20年以上前になるでしょうか、あるお医者さんが健康に関する本を書き、ベストセラーになりました。その中に、下図の私たちの研究結果を引用して、歯垢のpHが落ちて歯が溶ける前に歯を磨いて酸をとってしまわなければならないと書きました。 私は、むし歯のことを知らないお医者さんがとんでもない間違いをするものだと思いましたが、こんな馬鹿な話はそのうち消えるだろうと考え、放っておきました。何年かのち「一日3回、食後3分以内・・・」と言う話が広がり、びっくりしました。 この図をよく見て下さい。これは、食後ではなく食べ初めてから3分以内にpHが下がるのです。この論理によると、食べ初めてから3分以内に歯を磨かなければならないのです。 |
歯磨きは食前にすべきか、食後にすべきか種々の議論があり、どちらの方が良いとも決めかねます。 「歯垢がなくなれば、pHが落ちないのだから、食前に歯を磨いてしまえばいい」と言う人もいますが、歯垢を完全に除去することは不可能ですから、これは机上の空論です。また、疑問2に書いてあるように、「歯垢のpHがあがったときの歯の修復材料となるリン酸とカルシウムが歯垢中にたくさん溜まっているので、食後歯を磨いてこれをとってしまうと修復を阻害する」と主張する人もいます。しかし、これとても、歯を磨かないで歯垢のpHを永いこと低下させておくのが良いとも云えません。いずれにしろ、食前、食後いずれに歯を磨くべきかというしっかりした根拠は見あたりません。 私は、どちらと結論する自信もありません。ただ、歯垢を効率的に減らすと言う観点からすると、歯垢が最もよく増えやすい睡眠の前に、細菌の栄養を少なくしておくために歯をみがき、歯垢が増えたあとの朝起きたときに歯を磨くのは良いのではないかと思います。 |
多くの人は、母親は妊娠中には胎児にカルシウムをとられ、その結果歯がむし歯になりやすくなると思っているようです。 しかし、むし歯の起こるエナメル質は、下の図のように、ほとんどが石のようなリン酸カルシウムでできており、細胞は全くありません。カルシウムが不足したという情報は、骨の細胞に伝えられ、そこで、骨細胞が骨を溶かして血液中にカルシウムを出してやりますが、細胞のないエナメル質を溶かすことはできない。 妊娠中の犬にカルシウムの少ない餌を与え続けると、骨はナイフで削れるほど柔らかくなったが、歯には全く影響がなかったと言う実験(Fisch:1932)は、このことをはっきり示しています。 |
上記と同じように、カルシウムをたくさん食べると歯が丈夫になると思っている人が多いようです。いかにも、歯が丈夫になるようなことを表示したカルシウム入りのお菓子などが売っています。 しかし、上と同じ理由で、カルシウムを十分に摂ると骨は丈夫になるかもしれませんが、歯には全く影響はありません。歯がつくられるときでも、その材料になるカルシウムの供給が不足するほど血液中のカルシウム濃度が低下したら、ヒトは死んでしまいます。 骨が溶かされたり、つくられたりするによって、血液中のカルシウム濃度は、いつも厳密に一定に保たれています。 |
先日、「日本は火山国であるから水道水中にフッ素が多い。だから、フッ素過剰症になりやすい」と言う話を聞いてびっくりしました。結構広まっている話らしいのです。 上水道にそんなにフッ素が入っていたら、検査にパスしません。 このような話が、あるために、日本ではむし歯予防のためにフッ素が使いにくくなっているようです。全く根拠のない話が広まるのは、困ったものです。 |
むし歯の発生を説明するのに有名なカイス(Keyes)の三つの輪があります。食べ物、細菌、宿主(歯の形や唾液など)の三つの原因が揃って初めてむし歯になるというのです。 これを逆手にとって、これらのうちの一つをなくせばむし歯にならないと考える人がいます。しかし、このうちの一つを完全になくすことはできません。 |
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疑問21で述べたように、歯磨きで完全に細菌をなくすことはできません。また、疑問5で述べたように、砂糖を0にしても、むし歯が0になるわけでもありません。歯にフッ素を塗ったからといって、砂糖ものをいくら食べてもいいわけではありません。それでは、どうしたらよいのでしょう。 | |
私は、Keyesの三つの輪をまねて、口腔保健の三つの輪を提唱しました(左図)。 歯の健康(口腔保健)のためには、食べ物(ことに間食)の適切な食べ方、フッ素の適切な利用、歯磨き(歯ぐきの病気には大きな予防効果があります)の三つを同時並行して行わなければならない、どれか一つが欠けても、良い口腔保健は達成できないと言うものです。 そのうち、これが「Yamadaの三つの輪」と呼ばれるようにならないかな、と勝手なことを考えています。 |
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1999年9月14日作成 |
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