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このように、砂糖が歯垢微生物によって酸に変えられることが、むし歯の直接の原因となりますが、その他にも砂糖の種々の性質がむし歯の発生に関与すると考えられています。これらを列挙してみますと以下のようになります。
@ 歯垢微生物によって酸に変えられエナメル質を
溶かす。
A 歯垢のpHを低下させ耐酸性のウ蝕誘発性細菌
を増やす。
B ミュータンス・レンサ球菌の不溶性グルカンをつく
る材料となり、ウ蝕誘発性の強いこの菌を歯の 表面に固定する。
C 各種菌体外多糖の生成を促進し、歯垢の量を増
やす。
これらのうち、@Aの要因はグルコ−ス、フルクト−スでも同様ですが、BCの要因はスクロ−ス特有で、グルコ−ス、フルクト−スにはないものです。しかし、下記のように、スクロ−ス(砂糖)とグルコ−ス、フルクト−スは人のむし歯発生に対してはほとんど差はなく、人のむし歯の発生にはスクロ−スの@Aの性質が重要と考えられます。
日本では、むし歯の原因として図6に示すような、いわゆるミュータンス・ストーリーで説明されることが多いようです。これによりますと、砂糖がむし歯の原因となるためには、上記@の酸の材料になることゝ、BCの不溶性グルカンをつくること両方がむし歯の発生に必要となります。スウェーデンのKrasseがミュータンス菌を感染させたハムスターで行った実験では、スクロースのみがむし歯を起こし、グルコ−スにはほとんどウ蝕誘発性がありませんでした。米国のBowen は、猿を使って同様な実験を行いましたが、スクロースと異性化糖(グルコ−スとフルクト−スの混合物)の間で、ウ蝕誘発性には差がありませんでした。どちらが本当なのでしょう。フィンランドのツルクでヒトを用いての実験が行われました。被験者にスクロース、フルクト−ス、キシリトールで甘味をつけた食品を2年間にわたって供給し、むし歯の発生頻度を調べたのです(Turku Sugar Study:図7)。結果は、スクロース、フルクト−ス群では差がなく、酸をつくる材料にも、不溶性グルカンをつくる材料にもならないキシリトールを甘味料として食べていた人たちにだけむし歯の減少がみられました。
このような動物間の違いを生じた原因は、食習慣の違いがむし歯の発生に大きな影響を与えることゝ、むし歯がミュータンス菌だけで起こる病気ではないことにあります。ミュータンス・ストーリーは56%もの砂糖を含む食品だけを毎日食べ、歯垢の中にはミュータンス菌しかいないような動物に当てはまる話しなのです。ミュータンス・レンサ球菌以外にも、乳酸桿菌、低pHレンサ球菌などもウ蝕誘発性の高い細菌です。